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【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

日本ミシュランタイヤ、再生材料の採用加速は「持続可能」実現の大きな一歩―微細な「MRP」が押出成形品への再生ゴム粉末採用を可能に

SUSTAINABLE&RUBBER 2024-08-20

 「すべてを持続可能に」を企業ビジョンとするミシュラン。今回、同社グループ企業でスペシャリティケミカルメーカーであるリーハイテクノロジーの微細ゴム粉末(MRP:Micronized Rubber Powder)「MicroDyne」が、木本ゴム工業の押出成形品「リサイクルカーストッパー」に採用された。押出成形品への再生ゴム粉末の採用は、ゴム緩衝材としては初事例で、非常に画期的と言えるだろう。昨今“サステナブル”は聞き馴染みのある言葉・概念となった。一方で、コストの問題等、関連製品の開発や採用には課題も多い。「今回の上市によって、最終製品としてのリサイクル素材に対する市場のニーズを知りたい」とミシュランの日本法人・日本ミシュランタイヤは話す。

リサイクルカーストッパー

非常に微細な「MRP」が、押出成形品への再生ゴム粉末採用を実現

 ミシュランのグループ企業でスペシャリティケミカルメーカーのリーハイテクノロジーが製造する微細ゴム粉末(MRP)「MicroDyne」が、木本ゴム工業の「リサイクルカーストッパー」に採用された。

リーハイテクノロジーのMRP製造イメージ


 MRPは、幅広い用途に適合するタイヤ由来の微細な再生ゴム粉末。欧米を中心に、タイヤやプラスチック製品、アスファルト、建設、コーティング用途など多くの高機能製品に使用されている。その特徴は830ミクロン(20メッシュ)から50ミクロン(300メッシュ)までのマイクロスケールの粒子だ。この、非常に微細な粒子サイズは、リーハイテクノロジーの極低温ターボミル(凍結粉砕)技術によって実現した。

 カーストッパーは、倉庫や物流センターのトラックドックの緩衝材やトラック荷台の壁の保護材、駐車場や工場の衝撃吸収材などで使用される。「リサイクルカーストッパー」は押出成形の工業部材で、MRPを3%含有。このような押出成形品に再生ゴム粉が使用されるのは、ゴム緩衝材としては初事例となる。

 これまで押出成形品に再生ゴム粉末の適用が難しかったのは、従来のミリスケールのゴム粉末では成形時の品質や製品強度を保つことが困難だからだ。しかし、高品質かつ非常に微細なマイクロスケールの粒子サイズであるMRPであれば、製品の品質を損なわず、製造プロセスへの影響を抑えながら導入ができる。

サステナブル素材の市場需要を見定めるため、ユーザーの声を聞きたい

MRPの粒子サイズが異なる2種類のリサイクルカーストッパー


 リサイクルカーストッパーは従来品と同等のゴム強度を維持しながら、表面には細かな凹凸があり、マット調の仕上げとなっている。今回はMRPの粒子サイズが異なる2種類を用意した。「バージン品には光沢があるが、MRPを混ぜ入れるとマットな質感となる。粒子が細かいほど、表面の凸凹が滑らかになる」(日本ミシュランタイヤ)。

 日本ミシュランタイヤとして、マット調の質感が異なる2種類を用意した意図は、「サステナブル材料が含まれていることが一目でわかるようにした。実際の製品をユーザーに見て、比較してもらい、フィードバックをいただきたい。最終製品に対して何が望まれているのか、ユーザーの需要が見えてくれば、MRP含有量や製品形状、コストなど、投資の割合が変わってくる。需要を見定めていきたい」(同)。

タイヤ以外の出先を確保するために重要なパートナーシップ

 日本ミシュランとしては、かねてからMRPをタイヤ以外でも有効活用したいと考えていた。しかし、「いわゆる川下のどこに道筋があるのか、タイヤメーカーである当社のみでは活路を見出すには限界があった。タイヤ以外の出先を確保するためにも、共に探求できるパートナーシップが重要だと考えた」(同)。

 そこで、ゴム関連の取扱製品を多数取り揃えている木本ゴム工業に注目。「カーストッパーへのMRPの使用は、同社からの提案によるものだ」(同)。

「原材料は未来永劫、現在と同じように調達できるのか」という問い

 ミシュラングループは現在、すべての事業領域において、“サステナブル”を前提条件に、投資や開発、研究計画に組み込んでいる。だからこそ川下のニーズが、どのくらいのスピードで同社グループと共に動いてくれるのか、常に注視している。

 「長期的な視点で言うと、現在使用している原材料が、果たして未来永劫同じように調達できるかは不透明だ。常に同じ材料を調達するメーカーとしての義務がある一方で、それに替わるもの、同等の能力を持つものを提案・提供していくべきだと考えている。

 いつかサステナブル素材の方が、バージン品よりもリーズナブルになっていく未来もあり得る。だからこそ、ミシュランは今からその未来に向けて、備えていかなければならない。さもなければ、この先、『選ばれない企業』になってしまう可能性がある」(同)

「すべてを持続可能に」を実現するため、パートナーを増やす

 ミシュラングループは、「すべてを持続可能に」という企業ビジョン、また、人・地球・利益の三方良しを理念として掲げ、事業を推進している。ビジョン実現に向け、再生材料の採用加速は、大きな一歩となる。

 またビジョン実現は、ゼロから100まで全て同社一社で成し遂げられることではない。同社グループは今後も同じ志を持つパートナーを増やしていく。そして、需要や方向性を協議しながら、MRPをはじめとする再生材料の、様々なプロダクトへの適用を進めていく方針だ。

日本ミシュランタイヤ
研究開発本部 新規事業部
㊧執行役員/部長 
伊藤 祥子氏
㊨先端技術チーム エンジニア
前阪 将之氏


 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

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