【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
ブリヂストン、持続可能な天然ゴムの利用と生産実現へ―収穫量増加と小規模農家の生計向上を目指し、天然ゴム栽培の指導者を育成
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-10-15
天然ゴムは、タイヤ製造において不可欠な原材料だ。その需要が世界規模で拡大傾向にある中で、天然ゴムの持続可能性が求められている。ブリヂストンがその取り組み推進のために重要視しているのが、①森林保護②天然ゴムの生産性向上に伴う収穫量増加と小規模農家の生計向上である。同社は現在、WWFジャパン及びインドネシアと連携し、インドネシアの小規模農家を対象に中長期的な技術研修を実施。まずは同社の自社農園で培ってきた技術を伝えながら、指導者を育成している。取り組みの現況と展望を聞いた。

タッピング指導の様子
再生可能資源である天然ゴムの持続可能な利用の推進、生産性向上に取り組む
ブリヂストンは、会社全体のビジネスモデルそのものを循環型・再生型に進化させようとしている。その起点の一つが、タイヤ製造において重要な原材料である天然ゴムの、持続可能な利用の推進だ。
天然ゴム需要が世界規模で拡大傾向にある中、その持続可能な利用を実現するには、森林破壊を回避しながら今ある栽培地の生産性を向上させ、収穫量の増加による小規模農家の生計向上を図る必要がある。同社はこのような背景から、2026年までに1万2,000軒の小規模農家支援目標を設定。持続可能な天然ゴム生産を目指して、中長期的かつグローバルに、小規模農家への支援活動を推進している。「この取り組みは、生物多様性の損失を食い止め、回復を目指す“ネイチャー・ポジティブ”にも寄与できると考えている」(ブリヂストン)。
小規模農家へ、中長期的な天然ゴムの収穫増加に向けた技術研修を提供
同社は2024年の頭から、インドネシアでWWFジャパンと連携し、自然環境面を踏まえた天然ゴムの小規模農家への支援活動を開始。リアウ州とジャンビ州で、天然ゴムの収穫量増加に向けた技術研修を提供している。
WWFは、主に現地活動における事前のコーディネーターやフォローアップ役を担っている。「研修参加者の選定では、非常に尽力いただいた。少なくとも当社の中期事業計画(2024-2026)期間が終わる2026年まで連携し、支援活動に取り組んでいく」(同)。

受講者らによる集合写真
選定された小規模農家の組合は「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)」に参画しているメンバーでもあり、元々天然ゴムの持続可能性に対し、非常に高い問題意識を持っている。GPSNRも農家の底支えを重視しており、「当社の活動も、GPSNR内で情報としてシェアする可能性はあるだろう」(同)。

ップランプ回収方法の指導の様子
技術研修は、2024年内に計4回に分けて実施する計画で、すでに「2024年10月現在、3回分が終了した」(同)。受講者は同研修で整地や苗床づくり、タッピング(ゴムの木の樹皮を削って樹液を採取すること)、カップランプによるラテックスの採取まで一連の技術について学んでいる。「タッピングは、毎回最終日にテストをする。受講者は目に見えてスキルアップしている」(同)。
初回は2024年第1四半期に実施。全日程でブリヂストンの自社農園「PT. Bridgestone Sumatra Rubber Estate(BSRE)」のタッピングインストラクターによる技術指導が行われた。2回目は6月に行われ、BSREで大規模農園での天然ゴム採取の工程を1から10まで見学、体験。9月に行われた3回目では、再び技術面にフォーカスした。「例えば、“アップワード”という、1本のゴムの木を上に向かって無駄なく削る技術等、応用技術を習得してもらった」(同)。

病害対策研修の様子
病害対策の研修も実施。BSREで実際に病気の木を使い、罹病した木の見分け方をはじめ、罹病部位の切除や薬剤処理、隔離溝の設置等、応急処置の指導を行った。
一方、病害防止には木の植え替え時の整地が重要だが、「一般的な小規模農家は、重機を扱う資金確保が容易ではない。規模によって植え替え計画の立て方は異なってくる」(同)と言い、小規模農家の実情に応じた植え替え手段の検討が課題となる。
研修効果の最大化としてインドネシアの小規模農家17人を天然ゴム栽培の指導者に育成
同研修の強みは、1Dayではなく、長期にわたって継続的に行われることだ。「この研修を通し、BSREのスタッフと類似のトレーニングを受けてもらうことで、受講者17人を指導者へと育成している」(同)。指導者を増やし、彼らが各農家へ技術を普及させることで、地域全体の天然ゴム収穫量増加を達成するための体制を築いていく。
2025年には17人がチームに分かれ、実際に彼ら自身が小規模農家へ指導する、言わば“教育実習”が行われる予定だ。「最初は当社の専門メンバーもサポートしていく。現在は点で人財育成をしているが、さらに面的に広げていく」(同)。
農家たちは技術習得の先で、自前のナーサリー(ゴムの苗木を育てる場所)運営を希望していると言う。「来年以降、ナーサリーの設置や運営の研修も取り入れたい」(同)。
研修4回目は、そんな2025年への布石にもなる。「来年の研修計画を見込んだ研修内容を考えている。技術指導も引き続き実施する」(同)。
天然ゴムを農家にとって魅力ある農作物へ。中長期的な挑戦
同研修は、あくまでも小規模農家が自走して収益を上げていくためのサポートが目的だ。「今あるものをより最大限活用できる術を知ってもらう。例えば、カップランプでの回収方法によってロスが減り、収量向上に繋がる。それを理解してもらい、実際に自分たちの農園での採用を検討してもらっている」(同)。
現在、天然ゴムを伐採してパームに植え替える小規模農家も存在する。「農家としてはやはり、楽に稼げる農作物を選択していくのは当然だと思う。ブリヂストンとしては、天然ゴムの栽培方法を少し変えて、収穫量を向上させ収益に繋げることで、『もう少し天然ゴム栽培を続けてみよう』と思ってくれる農家を増やしたい。まずは研修を通して受講者に手応えを感じてもらいたいと思う。それが信頼関係にも繋がっていく。ゆくゆくは地方政府も巻き込んで、技術の普及・定着を持続可能な形にしていけないか、模索しているところだ」(同)。
持続可能な天然ゴムの利用と生産の実現は、決して一朝一夕ではない。中長期的な視点と行動で、同社は責任と覚悟を持って真摯に取り組みを進めていく。

サステナビリティコミュニケーション戦略部 G地域共生戦略企画課長兼ソーシャルバリュー戦略部主査
加納 大道氏
ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。
ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
三洋貿易、データベースサイト「CHEMBASE」で環境対応製
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-12-10
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
日本ゼオン、サーキュラーエコノミー実現へ―独自のリサイクル技
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-10-29
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RU...
日加R&E、粉砕の先を、パートナーと共に考える。再
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-10-01
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUB...
鑫永銓(HYC)、台湾最大のコンベヤベルトメーカー―自動化、
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-09-18
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
アルケマ、高機能とサステナビリティを両立。ヒマシ油使用のバイ
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-09-10
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
ホッティーポリマー×慶應義塾大学 理工学部 中央試験所、「3
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-08-27
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
日本ミシュランタイヤ、再生材料の採用加速は「持続可能」実現の
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-08-20
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
チル・ジャパン、シューズ1足に対し約15杯分のコーヒー粕を再
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-07-29
-
【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
デンカ、サーキュラーエコノミー推進活動に注力―ポリスチレンケ
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-07-16