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【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

アルケマ、高機能とサステナビリティを両立。ヒマシ油使用のバイオポリマー「Rilsan PA11」と「Pebax Rnew」

SUSTAINABLE&RUBBER 2024-09-10

 アスリートの輝かしい記録の背景には、卓越した特性を持つ、ある原材料が貢献している。特殊化学品メーカー・アルケマの「Pebax(ペバックス)エラストマー」だ。軽量かつ高反発性を有し、主にランニングシューズなどスポーツ用途で展開されている。中でも植物由来成分の比率が高い「Pebax Rnew」は、同社独自樹脂の「Rilsan(リルサン)PA11」と共にリサイクル可能なシューズにも用いられており、持続可能な社会の実現へも寄与している。同社の製品概要や用途開発の状況、サステナブルな取り組みなど、話を聞いた。

リサイクル可能な高機能シューズ「Cloudneo」

スペシャリティ材料メーカー・アルケマとは

 アルケマは、フランスを拠点とする特殊化学品メーカーで、日本法人は1974年に設立された。同社グループは、売り上げの9割を①接着剤ソリューション②先端材料③コーティングソリューションといったスペシャリティ材料が占めている。現在、スペシャリティ材料事業への更なる特化を目指しており、「2026年頃までに、その他事業の統廃合を進め、3事業で100%の構成を予定している」(アルケマ)と言う。

 同社製品は、自動車や航空機、建築、スポーツ用品、医療など、あらゆる用途で展開されている。「新領域としては、3Dプリンティングやリチウムイオン電池といった電池関係がある」(同)。

リサイクル可能な高機能シューズ「Cloudneo」を構成する2種類のバイオベース原材料

 「Cloudneo(クラウドネオ)」は、リサイクル可能なシューズだ。スイス発のスポーツブランド「On(オン)」が、アルケマと共同で開発した。同シューズは、「廃棄物を出さないランニング」の継続を目的とした、ランニングシューズのサブスクリプションサービス「Cyclon(サイクロン)」対象の商品。「Cyclon」では、最初のシューズ受け取り後、およそ6カ月毎に新しいシューズと交換ができる。履き古した靴は、廃棄せずオンへ返却し、原材料としてリサイクルされる。

トウゴマの種子(写真左)からヒマシ油を搾り、ポリアミドとなる


 「Cloudneo」の大部分は、アルケマの植物由来ポリアミド樹脂で構成されている。それが「Rilsan(リルサン)PA11」と「Pebax(ペバックス)Rnew」だ。両樹脂の原料には、トウゴマの種子から抽出される植物性油脂のヒマシ油が使用されている(「Pebax Rnew」には石油由来原料も使用)。「設計段階からマテリアルリサイクルがしやすいようにしている。当社の子会社Agiplast(イタリア)が、リサイクルを担う」(同)。

アルケマ独自のバイオ材料「Rilsan PA11」と「Pebax Rnew」

 「Rilsan PA11」は、1947年に誕生したポリアミド樹脂。優れた耐久性と柔軟性が特徴だ。

 「Pebax Rnew」は、ポリアミド系エラストマー「Pebax」に植物由来成分を付与した高機能バイオサーキュラー材料。「Pebax」はブロックコポリマーで、剛直なポリアミドブロックと柔軟なポリエーテルブロックで構成される。このブロック比率の調整により、幅広い硬さを製造可能だ。強靭性や反発性、軽量、柔軟性を兼ね備えている。

 「Pebax Rnew」は「Pebax」の性能はそのままに、ヒマシ油を原料に用いたことで、カーボンフットプリントの削減や、栽培過程での社会的、環境的な課題に取り組んでいる。

スポーツシューズ市場を席巻するポリマーブランド「Pebax Powered」

 スポーツシューズ市場では、近年、特に高まっている厚底ランニングシューズの需要を受け、軽量で反発性の高い素材が求められている。

「Pebax Powered」のロゴ


 「Pebax Powered」は「Pebax」や「Pebax Rnew」が採用された製品を総称するブランドで、反発性と軽量性の高さから、同市場のベンチマーク材料となっている。ランニングシューズをはじめ、各種スポーツシューズのミッドソールやアウトソールなどに採用されている。特に競技用シューズでは、名の知れた材料となった。

ソールの一部に「Pebax Rnew」を使用したミズノの「WAVE NEO WIND(ウエーブネオ ウインド)」


 「2021年開催の東京オリンピックの陸上競技では、ほぼ100%のメダリストが、『Pebax』シリーズが採用されたシューズを使用していた(※アルケマ調べ)」(同)と言う。アスリートによる輝かしい記録の背景に「Pebax」がある、と言っても過言ではない。

新たな成形技術の対応やシューズ市場のトレンドを注視

 今後の課題は、「世の中にある様々な成形方法に対応できる材料の提供」(同)。また変化が激しいシューズメーカーのトレンドをいかに早くキャッチし、材料開発に結び付けていけるかも「当社の大きな使命だと感じている」(同)。

 ただ、全てを同社で賄うことは難しく、パートナー企業等との連携にも注力する。「当社は協業や新技術の取り入れをかなり重視しており、今後も強化していく方針だ」(同)。

 汎用樹脂ではない「Pebax」は、元々高い価格設定となっている。しかし競技用シューズはコストが大きな壁にならず、採用率が高い。

 一方で、「一般流通においての量はまだまだ少ない。今後、いかに一般消費者が使用するシューズに採用してもらえるかが重要だ。『Pebax』が、社会の中でより当たり前の材料になることを望んでいる」(同)。

持続可能なトウゴマの栽培を支援

 同社バイオポリマーの主要原料である、ヒマシ油の持続可能な安定調達も重要課題だ。

 同社は世界最大の生産国であるインド・グジャラート州を中心に、小規模農家を支援している。2016年5月から、世界初のトウゴマ栽培プログラム「Pragati(プラガティ)」に、創立メンバーとして取り組み続けてきた。「従来よりも持続可能な農法を取り入れることで、農家の収量と収入の向上に成功した。さらに支援活動を通じ、カーボンフットプリントの削減、児童労働防止等も継続して取り組む」(同)。

 持続可能な社会の実現に向けた活動と並行し、同社は、一般消費者向けにも高機能素材の魅力を訴求し、より幅広い用途への展開を目指していく。

 ※Rilsan、Pebax、Pebax Rnew、Pebax Poweredはアルケマの登録商標となります。

機能性樹脂事業部
㊧R&Dサポートグループ
グループマネージャー
下西 祥幸氏
㊨ビジネスディベロップメントグループ
ビジネスディベロップメントマネージャー
勝野 能氏


 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

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