【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER[台湾編]
鑫永銓(HYC)、台湾最大のコンベヤベルトメーカー―自動化、再生可能エネルギー、環境改善でカーボンニュートラル目指す
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-09-18
台湾で最大手のコンベヤベルトメーカーである鑫永銓(HSIN YUNG CHIEN=略称HYC、本社・台湾南投市、林季進会長)は、ESG経営を推進し低炭素社会の実現に向け邁進している。ESGチームは林季佑社長をトップリーダーとし営業部門、技術・生産部門、開発・品質保証部門、労務・総務・監査などの各部門の幹部らで構成されており、李東副社長がチームをまとめている。「HYCはグローバル市場での事業展開を見据えESG経営を推進している。また地域周辺においては、SDGs活動を通した地元に根付いた社会貢献活動も積極的に行っているのが特徴だ」と林会長は語る。
日本では𠮷野ゴム工業に独占OEM供給へ、欧米でも高い実績誇る
鑫永銓(HYC)は1964年の設立。1980年に現在の台湾南投市南崗工業區の敷地5万㎡に、本社と5つの工場を構える上場企業である。創業時から台湾ナンバーワンのコンベヤベルトメーカーを目指し、企業ブランドの英語名を「KING」とした。
帆布コンベヤ、スチールコンベヤ、特殊ベルト、桟付け加工などコンベヤベルト製造のほか特殊ゴムシート、ラバーダム、牛舎向けゴムマットといった工業用ゴム製品も製造している。また、炭素繊維熱可塑性複合材料など環境対応型製品も手掛ける。HYC製のコンベヤベルトは日本では𠮷野ゴム工業(本社大阪、伊藤吉秀社長)に独占契約でOEM供給しているほか、欧米を含むグローバル市場で高い実績を築いている。
HYCでは2010年のCO2排出量値をベースに「自動化」「再生可能エネルギー」「環境」などの分野でそれぞれ改善を重ね2050年カーボンニュートラル実現を目指している。また、特に環境規制が活発な欧州の規制動向への対応はスピーディだ。
主要工場に設置する自動倉庫で効率化図る
第1工場は特殊ベルトの専用工場で耐熱性、耐油性ベルトなどの機能性ベルトのほか、大型や桟付けベルトを製造。
第2工場は軽搬送タイプのコンベヤベルトをはじめ、牛や馬など家畜専用マットなどを製造。さらにロートキュア(連続加硫プレス機)複数台を駆使し、ユーザーの多様なニーズに対応する。
第3工場はベルト芯体に使用する帆布の含浸工程となる。HYCは汎用の帆布の多くを協力企業から調達するが、特殊なタイプは自社で設計もする。
第4工場ではスチールベルトを中心に、2024年急傾斜コンベヤベルトの設備を導入、稼働した。
第5工場はラバーダム専用工場となる。同社は幅3mのロートキュアをはじめ8.5mと12m幅のプレスを備え、大型製品の製造はグローバル規模で認知されている。
主要工場には大型の自動倉庫を設置。自動倉庫は省スペース化と原材料や部品類のハンドリングコントロールの効率化に貢献している。自動倉庫の導入によって原材料や部材の管理はデジタル化でき生産効率を高めた。同社がこれまで構築してきた製品製造プロセスのノウハウは「例えコンペティターが同じ設備を備えたとしても、同等の品質を備えた製品は製造できない」(李炯東副社長)としている。
ボイラーシステムを天然ガス燃料に転換し省エネルギー化を実現
同社では製造設備の大型化や製品ラインアップの充実化と同時に自動化、省スペース化、省電力・省エネルギー化などを通して、CO2削減に努めてきた。さらに近年は原材料についても低炭素材料を活用した製造技術を確立している。
2009年にISO14001環境マネジメントシステム認証を取得した同社は、循環型経済への推進とグリーン製品の開発も意欲的だ。
特に同社のCO2削減対策に弾みをつけたのは、2011年にボイラーシステムを油から天然ガス燃料に転換したことにある。これによって、転換以前と比較し、温室効果ガスの排出量を大幅に削減することができ、汚染防止にもつながった。またスチームを回収して製造工程で必要な熱源に再利用し熱効率も高めている。さらに熱源が必要な工程と冷却が必要な工程を混在させることなく、それぞれの熱効率のバランスをとった省エネ製造ラインを構築するなど多様な手法で省エネ化を実現。同社にとって2023年はカーボンニュートラルに向け加速した年となり、2024年内はカーボンフットプリント認証取得を目指している。
再生エネルギーで事業使用電力100%を賄うRE100を目指す
また、太陽光発電の利用も積極的だ。2016年から採用の太陽光発電は1時間当たり1,850kWの発電能力で、得た電力を製造プロセスで再エネルギーとして活用。2024年はさらにエネルギー管理策を一段と進め、コンベヤメーカーとして世界初と言われるエネルギーマネジメントのISO50001認証取得する計画でおり、「事業の使用電力を100%再生エネルギーで賄うRE100を目指す」(同)方針だ。
同社のCO2排出削減政策では①環境にやさしい低炭素材料の開発②低炭素プロセスの確立と設備の改善③グリーンエネルギーへの転換④環境にやさしい認証の取得――と4つの項目を掲げており、「サプライヤーにも低炭素化へつながる供給協力を求めている」(同)。
HYCは国際環境認証「CRADLE TO CRADLE」を申請しており、「認証機関からはコンベヤベルト業界では初申請だと言われている」(同)。
天然ゴムの使用比率高まるコンベヤベルトEUDR対応の天然ゴムをコートジボワールから調達
HYCの製品は輸出比率が高く、特に欧州向け製品に関しては環境規制が厳しく環境対応型の原材料調達は必須となる。近年は、合成ゴムを植物性由来の天然ゴムに置き換えることでカーボン排出量の低減が図れるため、天然ゴムの使用比率を高めたコンベヤベルトのニーズは高まりつつある。
「欧州向け製品の場合はさらに欧州森林破壊防止規則(EUDR)対応の天然ゴムを使用しなければならず、EUDR対応が進んでいるコートジボワール産の天然ゴムを調達し使用している。今後EUDR対応の天然ゴム価格の上昇でコストアップが懸念材料となるが、環境対応には課題が付きまとう」と李副社長は語る。
ENRESTECS社のシステムを利用した循環型経済を組み込んだ製造体制
台湾では循環型経済への意識も高い。熱分解技術で世界的な特許を持つENRESTECS社は、使用済みプラスチックスをはじめゴムなどの有機廃棄物の熱分解とリサイクル技術を得意とする。廃棄タイヤを熱分解し、熱分解油、カーボンブラック、シリカなどを抽出する技術を確立した。HYCではENRESTECS社をCO2削減推進のパートナー企業とし、そのカーボンブラックなど再生原料を使用するなど、循環型経済を組み込んだ製造体制を構築させている。
工場の緑化と環境保護、さらに地域貢献活動に収益を還元
また、HYCは緑化工場としても知られている。
「弊社は工場を作るときに緑化には意識を高く持っていた。象徴となるのは、入り口に植えた“迎客松”で枝が腕を伸ばして客を迎える姿になっており、当社の気持ちを表現している」(林季佑社長)。
さらに2002年から緑化と環境保護に注力し工場敷地内に松の木を中心に多くの木を植え、台湾の工業団地の「緑の美化選手権」でも賞を受賞。「緑に囲まれることで、従業員の心身もリフレッシュできる環境として整えている」(同)。
また地域への貢献活動も活発だ。コロナ禍には新型コロナウイルスによって職を失った地域住民らを対象に3,000万台湾ドルを提供する制度を作り実施した。これらの行動に関し林会長は「企業として持続可能な成長と収益を得ることは使命だ。一方で環境保全と地域社会への貢献は、HYCがこの先もあるべき姿として継続するようにしたい」と語る。
ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。
ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。
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