【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
豊田合成、「脱炭素」の第一歩として社内廃棄物極小化を目指す-ウェザストリップをリサイクルし高品質な再生ゴムシートに
SUSTAINABLE&RUBBER 2023-11-06
豊田合成は新たに策定した「2030事業計画」において、目指す姿として「高分子の可能性を追求し、より良い移動と暮らしを未来につなぐ会社」を掲げている。その達成を目指し提供する社会的価値の一つに「脱炭素」を挙げており、具体策として、高機能材料の開発やリサイクルの推進に注力する。その一環として取り組んでいるのが、同社森町工場(静岡県周智郡)でのウェザストリップのリサイクルだ。「脱炭素」の足掛かりとして、まずは社内廃棄物極小化を目指し、協力会社、社会へと展開していきたいというリサイクル事業について話を聞いた。
「脱炭素」の観点からリサイクルを推進
豊田合成は「2030事業計画」内で、目指す姿に「高分子の可能性を追求し、より良い移動と暮らしを未来につなぐ会社」を掲げた。提供する社会的価値として、①「安心・安全」②「快適」③「脱炭素」の3つを提示。中でも「脱炭素」の観点では、高分子材料の知見を生かした高機能材料の開発やリサイクルを推進する。
ウェザストリップをリサイクル
その足掛かりとして、社内廃棄物極小化の実現に注力。まずはゴム廃材を高品質な原材料に再生できる独自技術を活用し、自動車用ゴム部品――特にエチレンプロピレンゴム(EPDM)を原材料とした同社のウェザストリップの生産時に生じる廃材を、社内でリサイクルする取り組みを推進している。
同社はウェザストリップの国内主力拠点である森町工場において、単体で最も廃棄物が多いオープニングトリムウェザストリップのリサイクルに着手。生産時に発生するゴム屑を、シート状の再生ゴムに生まれ変わらせている。
この再生ゴムを製品に添加すると、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量が、最大10%削減可能。また、森町工場のオープニングトリムウェザストリップの廃材をすべて再利用できるようになると、同工場全体の廃棄物の約3割が削減できる。
高品質な再生ゴムを実現
同社による再生ゴムは、①準バージン材といっても差し支えないブツ不良のない均一性②独自の脱臭技術による低臭気が主な強みだ。これら強みの実現には、特に2つのリサイクル工程が関係する。
一つが従来のパン法とは異なる「2軸押出脱硫装置」を用いた脱硫方法だ。同方法は、熱などのエネルギーを与え、ゴムと硫黄化合物の分子結合を選択的に解き加硫前の状態に戻す「脱硫再生」を行い、高品質な原材料の再生を可能にするもの。
脱硫方法の工程は①微粉化②脱硫③脱臭の3つのゾーンに分かれ、所要時間は10分以下と短い。①で廃ゴムを約0.5ミリに微粉化し、②で複雑な形状の2本のスクリューを高速回転させ、脱硫に必要な熱エネルギーを与え続ける。温度やスクリューの回転数を最適に保ち、ゴムを構成する高分子の結合は残しつつ、ゴムと硫黄化合物の結合のみを選択的に切断する。そして③では、「水脱臭技術」を用いて脱臭を行う。同技術では、硫黄が脱硫時に変性した、臭気の元となる硫黄化合物に注目。脱硫反応後に水を注入することで臭気成分を水に溶解させ、蒸気とともに脱気させる。
「パン法だと大型タンクによる大量生産が可能だが、製品を長時間高温高圧にさらすことでポリマーへのダメージが大きく、強い臭気とゴム性能の劣化に繋がっている。一方、当社の独自技術を用いると、コスト面で課題はあるものの、ゴム性能を高品位で残したままの再生が可能となる。これは大きな強みだ」(豊田合成)
もう一つが、脱硫再生の前工程である「金属分離」だ。オープニングトリムウェザストリップには、強度を高めるために金属が組み込まれている。破砕するとゴムの中に金属片が異物として混在している状態となるため、磁石で3回吸着し、徹底的に金属片を除去する。
出来上がった再生ゴムは、社内製品への再利用と、ゆくゆくは再生ゴムシートとして社外販売も視野に用途展開をしていく。「外販化については、基本的に材料販売で検討している。外部へのノウハウの提供も考えている」(同)。
協力会社への国際認証取得拡大も視野に
同社は森町工場でゴムのリサイクルを拡大するため、ウェザストリップ製品と再生ゴムシート(マスターバッチ)を対象に「ISCC PLUS認証」を取得。同認証は、リサイクル材などを用いて生産された持続可能な製品に対する国際認証で、社内のリサイクルがマスバランス方式により適切に管理されていることが保証される。同社の技術に対する、顧客からの認知拡大に繋がることも期待されている。
同認証は会社を超えた繋がりで再生材の量を保証するケースが一般的に多く、各メーカーやサプライヤーが順に認証チェーンを繋いでいく。一方、同社は自社廃材をリサイクルしているため、現時点では量の保証が必要なサプライチェーンでのやり取りがあるわけではない。しかし社内循環と言えども、適切な管理を実施している証明として、当面は活用していく考えだ。「認証については、協力会社等での取得へと拡げていくことも検討している。拡大できれば、当社として相当な強みとなるだろう」(同)。
社会全体を巻き込んだリサイクル事業の構築
同社は、社会全体を巻き込んだリサイクル事業の構築・展開を目指す。今後EPDM以外のゴムのリサイクル技術確立も目指していくが、まずは社内廃棄物極小化を目標に、引き続きウェザストリップ製品のリサイクルに注力していく。
「関係会社にもリサイクル事業を展開し、その先で材料販売や、市場回収したゴムを再生できるのが理想だが、化学物質のトレーサビリティも大きな課題となる。市場回収となれば廃棄物の状態把握も難しい。現在は使用禁止の化学材料も含まれる可能性があるため、どう対処するかが目下の大きな課題だ。プラットフォーム作りには相当な胆力が要る。しかしそこまで考え行動しないと、この先、企業として生き残ることはできない」(同)
ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。
ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。
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