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連載「つたえること・つたわるもの」(24)

イメージは会社物語、エピソードで広報。

連載 2017-09-12

出版ジャーナリスト 原山建郎
 武蔵野大学非常勤講師時代の教え子だったNさんは、大手輸入車販売会社の広報担当者。現在は中堅の広報ウーマンだが、十年ほど前、彼女が幹事を務めていた若手広報担当者の会(制作分科会)で「40字力」の実践的な演習を頼まれた。受講者は若手とはいえ、現役の広報スタッフであり、それでメシを食っているプロの書き手である。もちろん、二つ返事で引き受けることにした。

 「40字力」演習は、本コラム⑯(五月九日)で紹介した「タイトルは10~20字、リードは160字、解説は400字。」のエクササイズ+「企業の社外広報(会社の物語編集力)戦術」という構成で行った。

 その後、制作分科会幹事(当時)のNさんから、受講者の感想や意見などが書かれたフィードバックシートとともに、次のような内容のメールが届いた。

 若手広報担当者の会では毎月、5分科会の中から最も優れた勉強会に「分科会大賞」というものが贈られます。10月の勉強会は、「40字力を磨く」の制作分科会が分科会大賞を受賞しました!

 審査委員長(若手広報担当者の会 会長)の講評
――魅力的なタイトルに興味をひかれ、多くの参加者を集めていました。内容も実践的で、すぐに日々の業務に役立つような学習だったと思います。――

 素晴らしい! Nさんがつけてくれたタイトル「40字力を磨く」が、参加者の意欲をかきたてたのだ。これぞタイトルマッチの勝利である。フィードバックシートにも、『「具体的な40という文字数」の目安が、(広報の)作業内容をより明確にしてくれる。』というコメントがあった。そのほかにも、いくつかの質問や意見があったので、それぞれにアドバイスつきのファイルを返信した。

 ☆「タイトル」作成のコツやポイントについても、レクチャーのなかで伺いたかった。
 『主婦の友』の取材記者時代、私は20字×10行の原稿用紙を使っていた。ただし19字目と20字目の境には破線が引かれ、1枚の原稿文字量は19字×10行=190字(20字目は19字目からはみ出す句点・読点用。次行の先頭にこないため)だった。当時は、先輩記者から原稿の書き方を「教わる」のではなく「盗む」時代だったが、先輩は酒席などで興が乗ると「書くコツ」を「ささやいて」くれたものである。

 「ささやき」その1=タイトルは「日本語の七五(五七)調」だけでなく、「破調」も意識せよ。
 俳句や川柳は「5・7・5」で表現する17文字の定型詩だが、これを少し崩して「5・7・7」(19字)、「5・7・3」(15字)、または「4」や「8」を混ぜる、字余り、字足らずを「破調」という。リズミカルな七五調より、破調にするとインパクトが強い。広告のキャッチコピーにも「破調」の例がある。それを広報誌(紙)に応用するには、「5・7・5」の3行を、7~9字×2行に組み替えて勝負する方法がある。

 たとえば、キリンビバレッジのCM「苦い濃いより+甘い濃い/キリン濃い生茶」(6+4・7=17字)や「冷えた濃いより+熱い濃い/キリンホット生茶」(7+4・8=19字)、髙島屋の広告「薔薇と+書けなくても/バラになれる。」(3+6・7=16字)や「花はどこへ行った。」(9字)などがある。

 Nさんがつけてくれた今回のタイトルも、コピーを読点で締めくくれば、「40字力を磨く。」(7字→8字)とインパクトがさらに強まるはずだ。

 「ささやき」その2=タイトルの基本は、2フレーズ、19字以内に収める。
 これは、縦書きの主婦の友社原稿用紙1行=19字を目安にせよというアドバイス。本コラムのタイトルを、句読点も数えて「イメージは会社物語、エピソードで広報。」(5+4・6+3=19字)にまとめてみた。これがもし本文ならば、「会社物語というイメージを、エピソードで伝える広報。」(13+12=25字)のように、「伝えたいこと」を正確に表現するトピックセンテンス(達意の中心文)にすべきだが、こと「タイトル」に関しては「すべてを白日の下にさらしてしまうと、タイトルの引力が失われる」リスクが高まる。

 外山滋比古さんは、『ライフワークの思想』(ちくま文庫、2009年)の中で、「つじつまが合わぬ」または「書きすぎない」コピーのほうが、読み手の心をくすぐる「引力」の働きが強まると述べている。

 菊池寛は〝みんなすっかりわかるように話した〟と誇った友人に向かって〝それはいけない、どこか一、二カ所はわからぬところを残しておかなければ……〟と忠告したという。芭蕉は〝言いおおせて何かある〟といっている。全部いいつくしたらおしまい、ということだ。あえていわずに伏せておく。それが人の注意を引くのである。

 ことばに飛躍があって、論理のつながりがもうひとつしっくりしないというようなCMが人気を呼ぶことがあるのも、つじつまが合わぬところが引力の働きを果たしているのかもしれない。なれない人間が、広告コピーを書くとどうしても書きすぎる。書きたいことを落として、読むもの、見る人の心をくすぐる。それには空白、沈黙の効果も忘れることができない。(中略)
 いまの広告表現は音声中心、聴覚本位になりつつあるが、漢字という独自の表現手段をもつ日本語においては、視覚的表現の可能性はなお、きわめて大きいように思われる。
 音楽としてのことばと、絵としてのことばが調和したとき、われわれのことばは最も大きな魅力を発揮するであろう。
(同書「ことばの引力」219~220ページ)

 ☆会社の物語(歴史)を意識して広報活動をする「物語編集力」が印象的でした。
 文教大学の就職対策講座では、「企業(会社)研究」のひとつに「企業理念」と「沿革」をジョイントさせながら、その会社ならではの物語(ストーリー)として考えるように指導している。会社説明会に参加する学生のほとんどは、そこで示された(あるいは会社のホームページにある)企業理念の文字情報だけを丸暗記して、まるで金太郎飴のように「……という御社の企業理念に共感しました」と志望動機を述べている。

 しかし、その会社の「沿革」欄を「企業発展の歴史年表」と思って読んでみると、創業時の事業(たとえば、トヨタ自動車の前身は機織機械からスタートした豊田自動織機製作所、ユニクロの前身は男性用衣料品を扱っていた山口県の小郡商事が始まりなど)からさまざまな紆余曲折をへて、現在の主要事業にいたるまでのプロセスが見えてくる。また、その歴史を分析することを通じて「企業理念(家訓)」の意味を、少しは理解できるようになる。これは学生側(志望動機)の視点だが、採用側である広報の立場からは、自社の魅力アピールとして「沿革(創業の歴史)」の物語をどのように紹介するか、まさに広報の力が問われている。

 受講者のコメントの中に、『自分物語を書くことについて聞きたかった(書いてみたい)。』があった。これは、制作分科会での――いくつかの英雄物語に共通する「物語マザー(母型)」を活用して、自分が実際に体験したエピソードの「粗筋」を組み立て、自分らしいバリエーション(個性)を編集してみよう――というレクチャーに触発されて、あくまでも個人的に「自分史」を書きたいと思ったものらしい。しかし、たとえば採用試験に応募する学生たちに向けて、あたかも「自分物語を書く」というワクワクした気持ちで、広報担当者が「会社物語を書く」ことができれば、それを読む学生たちの期待感はいや増しに高まるはずだ。

 広報担当者が「広報(パブリック・インフォメーション)」として伝えるべき内容とは、もちろん「事実(実話)」であるはずのものであり、それはとりもなおさず「沿革(創業の歴史」という会社物語をかたちづくる一編の「挿話(エピソード)」である。自分の思いを相手に伝える、最も有効な方法は「物語(ナラティブ)」で伝えることだが、それは相手にぜひとも知ってほしいわが社の出来事(実話)を「エピソード」で伝えることを意味する。つまり、広報担当者が伝えるべき「エピソード」には、それが会社物語(目に見えないストーリー)を構成する大切な「一編」だという意識をもつこと、その「エピソード」を伝える広報担当者自身が、心からの感動とともに「物語の語り手」をめざす覚悟が求められている。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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