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連載コラム「白耳義通信」➈

「押す? 引く?」

連載 2017-06-14

鍵盤楽器奏者 末次 克史
 今月は結論から先に述べてみたい。ベルギー(欧州圏)は「押す」「足す」文化、日本は「引く」文化である。欧州と言っても全ての国を回ったわけではないので、例えば島国であるイギリスなどは少し事情が違うのかも知れないし、アジアの中でも日本だけ事情が違うかも知れない。

 先ず思い浮かべて頂きたいのが玄関のドア。日本は引いて開ける仕組みになっているのが殆どではないだろうか。玄関を有効に使うということも関係しているのだろう。そもそも欧州の家には日本のような靴を脱ぐスペースはないので、押して入っても余り問題は起こらない。

 面白いところではノコギリ。日本のノコギリは「引く」と切れるようになっているが、欧州のノコギリは「押す」と切れるようになっている。カンナも同様で、日本のノコギリのように引く時に力を入れてしまうと、なかなか上手く切れない。

 それから「足す」といえばお釣りを渡す時。日本では渡された金額から引き算をしてお釣りを渡すけれど、欧州では例えば92ユーロの物を買って100ユーロ出した場合、93ユーロ、95ユーロ、100ユーロと、小さい位から渡された金額になるまで足していく。ましてやレジに渡された紙幣を入れるとお釣りが自動的に出てくるようなレジは見たことがない。

 日本で「押す」といえば鉄道のラッシュ時の押し屋さん。以前、ベルギーのテレビ局が短編映画を作るというので、エキストラで「押し屋さん」役をやらされたこともある程、こちらの人には異様な光景に見えるようだ。ベルギーでは満員になるといえば朝の通勤通学時のバス位だけれど、そもそも満員なら停留所を通過するだけである。

 このように物の使い方や仕組みなどが気質を作っているのは非常に面白い。ただ不思議なのは水道の蛇口。捻るタイプではなくレバータイプだが、ベルギーでは上に引いた時に水が出る仕組みで、日本の実家にあるのは下に押した時に水が出る。これは何故なのだろうか、いつかメーカーに聞いてみたい。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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