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連載コラム「白耳義通信」60

「五輪の後で」

連載 2021-09-24

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 今月は嬉しいニュースから。10月31日より成田-ブリュッセルを結ぶ空の便が増え、週二便となるようです。ただ、ブリュッセル首都圏地域に於いては、日本からの渡航者はレッドゾーン扱いになり(以前はオレンジゾーン)、「ワクチン未接種、またはワクチン接収証明書を所持していない」と、10日間の検疫隔離を課すことが発表されました。

 日本は、第5波の新規感染者数が減少傾向にあるものの、行政の決定にはタイムラグがあるようで、現状とは必ずしもマッチしていないところがもどかしいところです。また9月23日付けの発表では、航空機搭乗の際、「日本のワクチン証明書は、ワクチン接種の有効な証明として認められる」ことになりました。

 東京オリンピック2020が閉幕した後の8月29日。国際オリンピック委員会(IOC)前会長であるジャック・ロゲ氏 (Jacuqes Rogge)が死去。ロゲ氏は、ベルギーのゲント(Gent)出身の整形外科医。セーリングの選手として、五輪に3度出場。元会長のサマランチ氏の後を受け、2001年より2期、IOCの会長を勤めました。「ミスター・クリーン」と呼ばれるほど、反ドーピングに力をいれたことと知られています。IOCの会長といえば、陽のサマランチ氏のイメージが強かったですが、質実剛健の人という印象が強く残っています。

 そのロゲ氏が生まれたゲントでは、音楽フェスティバルが開幕中。モーツァルトが所有していたバイオリンを用いて、演奏会が開かれています。この楽器は、北イタリアの楽器制作家ピエトロ・アントニオ・ダラ・コスタ(Pietro Antonio Dalla Costa)によるもので、1764年に作られました。このバイオリンはモーツァルトが生まれたオーストリアのザルツブルグにあるモーツァルテウム(Mozarteum)が所有しているのですが、滅多に持ち出されない為、非常に保管状態も良く、300年の時を経て古の音を聞かせてくれています。

 さて、7月中旬の洪水の爪痕は、高速道路を走っていてもみることになります。道路脇には、高く積まれた瓦礫の山が、災害の凄さを物語っています。この洪水で、ベルギー王室御用達のチョコレート店の一つであるガレー(Galler)の工場も、甚大な被害を受けました。1976年から稼働していた工場は泥水に飲み込まれ、来年3月まで使うことができません。

 この危機を救ったのが、ベルギー北部フランドル地域にあるチョコレート工場です。ガレーの工場は南部ワロン地域にあるのですが、何かと対立が目立つ南北の人々が助け合う姿に、ベルギーの明るい未来を見る思いがしました。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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