連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(45)
廃タイヤからカーボンブラックを製造する
連載 2024-04-23
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
世界のタイヤ産業では、廃タイヤをどう処理すればいいのかという問題が昔から議論されてきました。日本でも日本自動車タイヤ協会が昔から廃タイヤの取り扱いについて研修会を開き、またレポートを出しています。昔は廃タイヤが違法投棄されて、そこから火災が発生したり、蚊の発生源になったりして問題視されてきました。この10年間は、廃タイヤをリサイクルして、どうタイヤの原料に戻すかが議論されています。SDGsの考え方で、マテリアルリサイクルして、資源をどう活用するかという方向で研究、技術開発が進んでいます。

タイの廃タイヤ熱分解工場ECOINFINIC社のサイトより。加藤は2023年に訪問しました。年300トン再生カーボンブラックを製造しており、工場を拡張するそうです。
トラックバスのタイヤ、特にトレッド部分(地面に接地するところ)は、昔から再生ゴム原料として使われています。しかし再生ゴムとして使われる量はこの30年間に半分以下になり、現在は年1万トン弱ぐらいです。日本のタイヤに使われるゴム(合成ゴム、天然ゴム)の量が年90万トンですから、廃タイヤからタイヤ原料に戻すのはまだわずかなのです。
この5年間で世界では廃タイヤから熱分解して疑似カーボンブラックまたはカーボンブラック原料を取り出そうという動きがあり、技術開発が進み、その生産工場が世界で続々と稼働開始しています。残念ながら日本ではまだ本格的な工場はありません。使用済みタイヤを蒸し焼き(熱分解)して、タイヤから、オイル、炭、スチールコードくずを取り出すのです。オイルは燃料オイルになり、またカーボンブラックの原料にもなります。炭はカーボンブラックと同じですから、リサイクルカーボンブラック(rCB)としてカーボンブラックと同様に使えます。私は、これは疑似カーボンブラックと考えています。この廃タイヤを熱分解した疑似カーボンブラックは、本来のカーボンブラックの補強性に比べると、その補強性が劣ります。しかし本来のカーボンブラックに混ぜて使用することは可能です。
このタイヤ熱分解工場は、中国には10社近くのタイヤ熱分解工場があり、その処理能力は年30万トン近い。3分の1が疑似カーボンブラックになるとしても、それは年10万トンになる。ちなみに日本のカーボンブラックのタイヤでの消費量は年44万トン程度です。
インドにはタイヤ熱分解会社は3社、EUにも2社、米国に2社、タイに2社、韓国に1社あります。タイヤ生産、消費が多い国、地域で、タイヤ熱分解会社がないのは日本だけです。また2024年11月にはオランダで再生カーボンブラック会議が開かれます。
世界最大手のカーボンブラック会社の幹部に聞くと、「サステナブル、リサイクルの時代の要請を考えると、タイヤ熱分解は一つの回答かもしれない。しかし、タイヤ熱分解の疑似カーボンブラックはゴムの補強性が足りない。よってそのままの新品カーボンブラックの置換にはならない。混ぜて使うことは可能かもしれないが一部だけだ。タイヤ会社からの要請もあり、廃タイヤ熱分解からのオイルをカーボンブラック原料(いわゆる、エチレンボトムオイル、FCCボトムオイル、クレオソートオイル)の代わりに使うことは検討しているが、使用にあたってのネックは、この熱分解オイルが毎回ロット間のばらつきが大きすぎて、同じグレードのカーボンブラックをつくるのに苦労する」とのこと。そもそも廃タイヤとは、いろいろなタイヤ製造会社のタイヤが回収されてくるので、均一な原料ではありません。中国製タイヤ、日本製タイヤでは配合が異なります。同じ配合のタイヤだけを集めて熱分解したいがそういうわけにはいきません。どうも大手タイヤ会社も、「廃タイヤ熱分解の疑似カーボンブラックはそのまま使うには相当な技術ブレークスルーが必要だ。それより、熱分解オイルをカーボンブラック原料または、合成ゴム原料のブタジエンまで戻した方が安心して使える」と考えているようです。
日本にもそのうち 廃タイヤの量産型熱分解工場ができて、そこから、タイヤ、ゴム原料が生まれてくる時代がくるでしょう。
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