連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(41)
フッ素ゴムが製造、使用ができなくなる?
連載 2023-08-08
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
欧州でフッ素ゴムが製造できなくなる、使用できなくなる、フッ素ゴム部品が使えなくなる危機がきています。欧州化学品庁が すべての有機フッ素化合物(PFAS)について、製造、使用禁止する案を決めて23年3月に公表しました。
現在この原案に対してパブリックコメントが産業界、エンドユーザーからくるのを求めていますが、そのパブリックコメントを9月25日に締めきり、その後検討して24年春までには、製造、使用禁止を決定します。
このままでいくとすべてのフッ素ゴム、フッ素樹脂、フッ素系溶剤、フッ素系洗浄剤は欧州では製造できなくなり、また使用できなくなります。フッ素ゴム部品が使われているエンジンを積んだ自動車は欧州では走れなくなります。同じく米国もそれに追従する可能性があります。もっとも12年間猶予される可能性もありますが、その後は使用禁止になります。
有機フッ素化合粒は4000種以上あります。このうち分子量の小さいPFOA PFOSは体に入った場合、蓄積性があり、人体への影響がありそうです。しかし分子量は数万から数10万ぐらいあるフッ素ゴムを、炭素の数が8以下の、分子量が少ないPFOA(分子量400以下)と同じように規制をすることは、全く無意味で、科学的にも無茶な話と考えます。現在マスコミでは全部のPFASが危険だという論調を張っていますがこれも間違いです。
さらにフッ素ゴムが使えなくなると、自動車エンジン、燃料ホース、エンジンバルブゴム部品、エンジンセンサー部品、エンジンシール等自動車の主要部品が作れなくなります。同じく精密機械、半導体製造機械、化学プラント、防衛産業機器、ロケットのシール部品(昔米国のスペースシャトルが事故で墜落したのも、フッ素ゴム部品が原因でした。適正な仕様ではなかったからでした。)アップルの時計、AppleWatchのバンドもフッ素ゴムです。また半導体製造に欠かせないフッ素系洗浄剤がないと、半導体が製造できません。現在これらの用途に適する、フッ素ゴム、フッ素樹脂、フッ素系溶剤、洗浄剤の代替化学品はありません。
フッ素ゴムは欧州以外では、米国、日本、中国、インドで製造されています。欧州につづき、米国、日本でも同様な規制が始まると、フッ素ゴムが製造できる国が中国、インドだけになってしまい、製造能力も大幅(世界生産能力に対して40%以下)に減ってしまいます。ほとんどが中国製になります。これもサプライチェーンセキュリティー上、経済安全保安上、大問題になります。
どうしたらいいのか? まずは、健康に悪影響を与えそうな有機フッ素化合物とそれ以外に分類すべき、PFOA,PFOSのような有害の可能性がある物質だけ規制すべきでしょう。全部まとめてダメというは乱暴な議論です。
すでに経団連、日本フルオロケミカルプロダクト協議会(フッ素ゴムのメーカー、使用者の任意団体)はこのような反対意見を表明して欧州化学庁にパブリックコメントを送りました。加藤事務所、加藤産商、埼光ゴムも同じく同様なパブリックコメントを送りました。日本ゴム工業会も現在会員の意見を集約中で、9月までに同様な対応をするそうです。ぜひ皆さんも欧州化学品庁に対してパブリックコメント(フッ素ゴムが産業上必要な化学品であること。フッ素ゴムと、有害と考えられている低分子の有機フッ素化合物とは別に考えて規制をしてほしいこと)を送ってください。
気になるのは、このようなパブリックコメントを送っている団体の多くが日本とドイツだけで、他の国、フランス、イタリア、その他のEU各国からは、パブリックコメントの送付が少ないということです。数で反対意見を表明しないと、一部のユーザーだけが反対していると考えられ、大多数は賛成として、原案がそのまま決定になり、フッ素ゴム、フッ素樹脂を含め製造、使用禁止が欧州で決定されてしまう可能性がかなりあります。このままでは大変なことになります。今後もこの問題をフォローしていきたいと思います。
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