連載「ゴム業界の常識・非常識」(37)
飛行機のタイヤではどのタイヤが一番酷な使い方をされるのか?
連載 2022-12-19
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
12月に全日空の羽田整備工場に見学に行ってきました。下の写真のとおりですが、ボーイング777,787,767、737機の整備をやっていました。私は出張が多いので、飛行機に沢山乗ることが多く、生涯で2000回以上搭乗しているはずです。
ゴム人として当然、飛行機のタイヤが気になります。飛行機が滑走路に着陸するときにタイヤ付近からぱっと白い煙が立ちますが、あれは何だろう。天然ゴム、プロセスオイルが高温で気化しているのか?大体時速250kmの速度でタイヤが接地し、上から何十トンの重さが1本のタイヤにかかりますから、タイヤ側からみるとたまりません。着陸時にはタイヤ表面が250℃以上にもなります。
調べてみると、ボーイング777機には14本、エアバスA380機には22本のタイヤがついています。航空機のタイヤは150から200回の着陸で交換してきます。すり減るからです。整備工場でいっぺんに交換するのが普通ですが、フライト後の点検で傷が発見されれば、飛行場の搭乗スポット付近で取り換えることもあります。前にその場で交換しているのを見たことがあります。
タイヤのゴムは天然ゴムが主体です。補強材はナイロンコードが主体で、従来はバイアスタイヤでしたが、最近はラジアルタイヤが増えてきています。着陸時には250℃以上、空を飛んでいる時にはマイナス45℃、この温度レンジに耐えられるゴムが必要です。マイナス45℃ではタイヤは静止しているからよいのですが、その温度で着陸したら、タイヤは割れてしまうかもしれません。
航空機タイヤはリトレッドで何回も表面が張り替えられます。5回ぐらい張り替えて使えます。タイヤ交換をした後表面を削り、新しいゴムコンパウンドを貼り付け、加硫して、また航空機タイヤとして使用されます。ブリヂストンのサイトによると、一般的にバイアスタイヤはリトレッドを約6回繰り返し、新品時と合わせ合計で約1400回/1本使用が可能です。ラジアルタイヤの場合、約350回の離着陸でリトレッドを行い、それを約3回繰り返す事が可能とのこと。
前にブリヂストンの東京小平の航空機タイヤ工場に行ったことがありますが、そこら中にいろいろな機種のタイヤがおいてあり、まるで航空会社の整備工場のようでした。目の前で見るとタイヤが本当に大きかったことが印象的でした。もちろん工場の製造部には入れませんでしたが。
飛行機のタイヤの中には窒素ガスが充填されていますが、その内圧は自動車タイヤの内圧の5倍ぐらい、トラックバスタイヤの倍ぐらい高いのです。相当の高圧です。そのぐらい高い圧力でないと、重い機体を支えることができないのでしょう。空気だと酸素が入っており、万が一タイヤが高温で内部から燃えると大変、また空気中の水分が上空でマイナス45℃では凍ってしまい、圧が下がりこれも危険です。
タイヤの表面、トレッド部のゴムは、着陸時に滑走路表面にも張り付きます。前にテレビ番組でやっていましたが、高圧の水を滑走路表面に吹きつけ、表面やすべり防止の溝に詰まったゴムをはがし、それを吸引してゴム清掃車のように剥がしたゴム片をためて、最後に捨てます。数か月に一回の掃除で滑走路表面から1トンのゴムが取れるとか。一回の着陸で1本のタイヤから500gのゴムが剥がれ落ちるとか。成田空港では発着回数が多いので毎週滑走路のゴム取りをしているそうです。
さて、タイヤには前輪と主輪があります。前輪は操縦席の下の2本のタイヤです。主輪は主翼の付け根にあるタイヤです。どのタイヤが一番酷な使い方をされるのか? 着陸時には主輪が初めに接地して白い煙を上げます。
正解は前輪のタイヤです。タイヤにとって、地上を滑走時に、機体の向きを変えるため、ぐりぐりと前輪が地面に接地したまま、向きを変える、この時がタイヤ表面、タイヤ構造体にとって一番厳しい動き、条件になります。それに耐えられるゴム配合、タイヤ構造、補強材を選ぶそうです。何か飛行機がスムーズに向きを変えて動いていますが、その時前輪タイヤが悲鳴をあげているかもしれません。(もちろん大丈夫ですが)
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