連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(44)
ゴム原材料は従来のフォーミュラー価格ではもう無理
連載 2024-02-05
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
加藤事務所は、ゴム原材料を売り買いしている商社です。合成ゴム、天然ゴム、カーボンブラック、酸化亜鉛、その他のゴム薬品を販売しています。私もこの分野の仕事をもう35年間以上やっています。
昔は、これらの価格交渉はすべて、面談で、値上げの理由を説明して、納得してもらうまで数回も取引先に通い、やがて値上げ幅を半分とか、2/3とか圧縮して、交渉妥結となり、やっと一回の値上げが決まるというやり方でやってました。値下げ交渉も同じです。このやり方をやると、ゴム原材料のコスト構造、生産コスト、課題点を勉強します。また値上げ幅を圧縮するにはどうしたらいいか、1回の注文量を増やして、まとめて配送し、物流コストを減らす。半年分や1年分の注文をもらい、製造メーカが暇な時期につくれるようにして、生産を平準化する、計画的に生産、在庫できるようにする。こうすることでお互い無駄を減らしてコストダウンする、VA提案するといったことも考えて仕事をしてきました。
それがこの10年間、ゴム原材料の価格を原料コストに応じてフォーミュラー化し、3カ月毎(オイル関係は毎月)価格を自動計算にて変動させる方式が一気に広まりました。確かにその方が、お互い損得がありません。交渉に費やす時間が少なくなります。営業部の人数が減っても業務を維持できます。現在合成ゴム、カーボンブラック、酸化亜鉛、プロセスオイル、可塑剤にはこの方法が広く使われています。また日本のタイヤ会社では、海外の合成ゴム、カーボンブラック、オイルを購入する時にはずっと前から年間フォーミュラー価格方式が実施されていました。天然ゴムはシンガポールの天然ゴム市場(SICOM)価格を指標にして、長期供給契約では、船積前月のSICOM平均価格を使って、毎月の船積価格をフォーミュラー式で決める方式が世界で一般的になっています。
このフォーミュラー方式は便利ですが、ここにきて問題点、課題点がでてきました。
1)フォーミュラー方式は素原料のコスト変動には対応しますが、生産時の人件費、販売管理費、物流コスト、設備メンテナンス更新費用の変動は考えていませんでした。10年間も同じフォーミュラーでやっていると、これらの部分がコストアップになってきて、結果的に製造側の利益が減ってきます。
2)粗原料のファクター(どの原料購入コスト分をどのぐらい影響与えるか)も、10年経つと、その係数(影響度)がかわってきます。また、従来考えていなかったファクターが出てくることも考えられえます。例えば工場全体を動かす電気代、スチームを作る石炭、LNG代が近年上がってきており、いままでそれをあまり考えていなかった。
3)ものの値段は需給バランスで決まります。足りないと価格が上がる。余ると下がる。しかしフォーミュラー価格は需給変動による価格変動は一切考えていません。
4)販売する方、購入する方共に、その製品(例えば合成ゴム、カーボンブラック)のコスト構造、供給に関する問題を勉強しなくなります。お互い取引先や社内で説明ができなくなってきています。VAを考える時にどこから手を付けたらいいのかわからなくなります。販売する商社も同じです。
最近これらのフォーミュラー価格を見直す動きがでてきました。今まで溜まっていた問題を解決する時期にきているのです。例えば、合成ゴムのフォーミュラー価格の素原料の係数見直し、ユーティリティーコストの導入と変数見直し、カーボンブラックの粗原料項目の見直し、物流費の洗い出し、管理費や設備メンテナンス費用増額にお願い(いわゆる事業継続のための値上げ)です。この特に2年間これらの見直しが増えてきました。よって今までのようにゴム製品の製造コストは、原油価格と天然ゴム価格の連動だとは、単純に言えなくなってきました。
またゴム原材料の製造会社の数が減り、撤退する会社もでてきているので、供給する側の立場が強くなってきているのも事実です。原材料市場が過当競争時代ではなくなってきたのです。
こうなると、タイヤ、ゴム製品を製造している会社も、その製品販売をする際に、これらのことを考えて販売価格を決めていく必要があります。また若手の方は原材料のマーケットをフォーミュラー価格に任せないで再度勉強する必要があります。マーケットは生き物ですから。
そういえば、天然ゴムの価格がだいぶあがってきました。2024年2月2日日本経済新聞朝刊に、天然ゴムの解説記事が掲載されていますので参考にしてみて下さい。
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