連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(43)
オールシーズンタイヤで雪道は走れるか?
連載 2023-12-05
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
11月末に出張で米国オハイオ州アクロン市を訪ねました。
11月も下旬になると、五大湖に近いアクロン市はもう冬です。すでに何回も雪がふりました。気温も最低気温は氷点下です。
北米では、雪の降る地域を走る車は基本的にはオールシーズンタイヤを履いています。雪が降っても夏と同じタイヤで走行します。雪道で真っ白な道路でも同じタイヤで走ります。
そもそも冬道専用のウインタータイヤ(スノータイヤ)の販売数量が米国では全体の3%程度、日本では30%ぐらいはあります。どうして米国はウインタータイヤを買う人が少ないのか?
北米の積雪地帯ではハイウェーや主要道路は雪が降るとすぐに融雪剤を多量に撒いて雪を溶かします。またスノータイヤ規制があまりなく、あっても罰則規定がありません。タイヤを交換する手間、費用が掛かるので米国人は一般的にはオールシーズンタイヤだけで、夏冬、雪道でも走ります。
一方、日本のタイヤメーカーでも最近オールシーズンタイヤの宣伝が増えてきました。住友ゴム工業が2023年冬に新型オールシーズンタイヤをPRしています。同じタイヤで夏も、冬も、雪道でも走れ、スノータイヤ規制でも問題ないことになります。
日本では昔からGOODYEARがオールシーズンタイヤを販売しており、それに対抗して日本のタイヤメーカーもオールシーズンタイヤに力を入れているように見えます。オールシーズンタイヤとは言いますが、スノータイヤに比べると雪道、特にアイスバーンでのブレーキ性能はかなり落ちるようです。また一般のタイヤに比べて省燃費性能、ウェットグリップ性能もやや落ちます。よってオールシーズンタイヤで雪道を走れるかの回答はいろいろ言えますが、雪道であれば、なんとかOKですが、アイスバーンの道はちょっと慎重にということでしょうか?2種のタイヤを買うこととそのタイヤの実力のコストパフォーマンスを考えると、回答は人によって異なり微妙でしょう。
配合技術、タイヤ設計技術に進歩がないと、日本の気候、道路事情に合わせたオールシーズンタイヤはなかなか開発が進歩しません。使うゴムのガラス転移温度も冬と夏を両方カバーするものもなかなかありません。
住友ゴム工業が最近発売した、水や温度に反応してゴムが柔らかくなるという新技術「アクティブトレッド」を使ったタイヤは面白い発想だとおもいます。北海道大学理学部との共同開発だそうですが、ゴムは低温で硬くなるものという常識を、サーモアクティブハイドロゲルというアイデアで逆転させました。
また信越化学工業、クラレのタイヤ原材料も採用されています。年間で2種類のタイヤの持つことに対し、それを1種だけに減らすことで地球環境の負荷を低減し、サステイナブルな社会の実現に貢献するという発想もユニークです。
いままでと違った視点でオールシーズンタイヤのメリットを訴えています。アイスバーンにも十分効果があるタイヤができるとオールシーズンタイヤはもっと装着率が増えるでしょう。都会であまり雪が降らない場所にはオールシーズンタイヤはメリットありです。しかし米国と日本ではそもそも環境が違うので、日本の道路事情にあったオールシーズンタイヤが望まれています。
写真はアクロン市の12月の風景です。駐車場に雪が残っていますが、写真のオールシーズンタイヤで雪道をそのまま走ります。そのタイヤトレッド表面の様子です。
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