白耳義通信 第90回
自転車泥棒からロダンまで
連載 2024-04-16
鍵盤楽器奏者 末次 克史
今月はローカルな話題から。
あれはもう一ヶ月も前のことだっただろうか。メッヘレン Mechelen に住む知人が、自転車の鍵を壊されてしまい、車輪が動かなくなってしまったと嘆いていたのを覚えている。先日、ローカルニュースを見ていると、ある自転車泥棒が捕まったとのこと。この泥棒、メッヘレン駅の自転車置き場で不審な動きをしているところを警察に職務質問され警察署へ連行されたのだが、取り調べの際、「俺はまたやるよ」と宣言。釈放後、なんと警察署の近くで、再び自転車を盗もうとしたところを直ぐ様御用になったという、何とも間抜けな泥棒でもある。
知人が自転車を停めていたのは、実はこの警察署の近くで、このニュースを見て直ぐ知人に連絡を取ったら、もしかして犯人はこの泥棒だったのかも知れないという話になった。しかし、壊された鍵が弁償される訳でも無く、怒りの持って行き場がないのが辛いところ。警察署や駅であれば、監視カメラを見れば分かりそうなものであるが、被害に遭ったことを警察に届け出ていても事がスムーズに運ばないのはやり切れない。
次は、ベルギーの南西に位置するモンス Mons の話題を。
ロダンといえば Le Penseur「考える人」。オリジナルは世界各地にあり、日本を始め、ここベルギーでは、ブリュッセルのラーケン Laeken/Laken 墓地にそのブロンズ像を見ることができる。そのオーギュスト・ロダン Auguste Rodin と、ベルギーの女性彫刻家 ベルリンデ・デ・ブリュッケル Berlinde De Bruyckere の展覧会がモンスで行われる。
フランス・パリに生まれたロダンは1871年から6年間ベルギーに暮らし、ブリュッセル証券取引所を可愛い天使で飾り付けることに取り組むなど、ベルギーで芸術的な変化を遂げ、この地で「職人から芸術家へと変わった」と言われている。ロダンが最初の個展を開催したのはブリュッセルで、この時に展示された「青銅時代」L’Âge d’airain はゲントの兵士オーギュスト・ネイト Auguste Neyt がポーズを取っている。ロダン自身も「わたしの野外スタジオと同じくらい大好きな国」というくらい、ベルギーに思い入れがあるようだ。
対するデ・ブリュッケルは、ベルギーの現代アーティストで、彼女の彫刻は「身体」をモチーフにしたものが多く、宗教的なイメージや神話、フランドル・ルネッサンスの影響を受けていると言われている。二人の作品を見ていると、時空、そして性別を超えた対話がなされているように感じる。ロダンとデ・ブリュッケルの作品は、モンスの教会や市庁舎の庭などで見ることができる。ブリュッセルから電車で一時間。モンスへ行く際には是非、左側の席に座ってください。モンスに近付くと、ミニチュアのような可愛い街が前方に見えてきます。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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