白耳義通信 第92回
「ストラディヴァリウスからコロナウイルスまで」
連載 2024-06-19
鍵盤楽器奏者 末次 克史
普段、クラシック音楽を聴かない人でもヴァイオリンの名器・ストラディヴァリウスは聞いたことがあるのではないだろうか。イタリアのストラディヴァリ父子(父・アントニオ、子・フランチェスコ、オモボノ)が、17世紀から18世紀にかけて制作した楽器で、現存するのは約600挺。オークションにかけられると、何十億という値段が付けられることもある。
先月、記事にした Eurovision と同時期に開催されるのが、世界三大音楽コンクールの一つ、エリザベート王妃国際音楽コンクール(あと二つは、チャイコフスキー国際コンクールとショパン国際ピアノコンクール)。ベルギーの首都・ブリュッセルで行われ、今年はヴァイオリン部門の年であった。
そのコンクールで40年もの長きに渡ってヴァイオリンの手入れをしているのが、ベルギー人のヤン・ストリック Jan Strick 氏。本番で、参加者が最高の演奏ができるように舞台裏から援助している。ここ数年で、参加者のレベルは飛躍的に上がると同時に、彼らが持っている楽器も名器揃いである。前述のストラディヴァリウスに始まり、アマティ、グァダニーニといった名前が並ぶ。
しかも面白いことに、プログラムには、誰がどの楽器を使用しているか、所有者は誰なのかまで書かれている。貸与する側も、コンクールで好成績を収めそうな演奏家に弾いて貰うことで、楽器の価値もあがり、名誉を得られるという訳だ。コンクールのファイナリストともなれば、ほぼ全員が前述の名器を使うことになる。中には、コンクールの数週間前に初めて「名器」を手にすることもあるという。
因みに今年の優勝者は、ウクライナからやってきたドミトロ・ウドヴィチェンコ Dmytro Udovychenko さん。ドイツの音楽財団からレンタルしたグァダニーニで栄冠を掴んだ。
さて、ここのところめっきり新型コロナウイルス関連ニュースは報道されないと思っていたら、X(旧ツイッター)に衝撃的なツイートが。「ほら!新型コロナウイルスが戻ってきた!」と、ルーヴァン大学のレーガ研究所が発表。これによると、ルーヴァンの下水から驚くべき量のコロナウイルスが発見されたとのこと。
毎月のように下水を採取しているが、「これほど大規模な集中が見られるのは数カ月ぶりだった」ようである。2020年から数年経った今でも、大量のウィルスが存在するということは、再び多くの人が感染する可能性もあるということである。
今夏、フランス・パリでオリンピックが開催されるが、大事な舞台で思いもよらぬ落とし穴にはまらないことを祈るばかりである。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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