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白耳義通信 第87回

「ベートーヴェンのピアノ・ソナタ」

連載 2023-12-18

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 日本では、鍋が美味しい季節になりましたね。ベルギーでは、鍋を皆でつつくという習慣はありません。大皿に盛られているものをテーブルの上で分け合うとなると、サラダやピザ、パスタになるでしょうか。最初から一人分に分けられているより、皆で取り分けるとなると、必然的に会話も生まれます。特にイタリア人の家族愛、話し好きは、こんなところからも生まれているのかと思ったりします。

 ベルギーで冬の料理と言えば、チコリのグラタンにストゥンプ、ヒュツポットなどでしょうか。これらの料理についてはまたの機会に紹介したいと思います。

 さて今月は、このコラムで何度も登場しているベートーヴェンについての新しいニュースです。皆さんは「ベートーヴェンの曲と言えば?」と聞かれたら、どの曲を思い浮かべますか? 「運命」「第九」と答えられる方も多いと想像します。では、「ベートーヴェンのピアノ曲は?」と聞かれたらどうでしょう。「エリーゼのために」と直ぐ答えられる方もいるかも知れませんが、こちらは曲を聞けば、「そうそう、これこれ」と思われる方の方が多い気もします。

 ベートーヴェンは32のピアノ・ソナタを作曲していますが、中でも三大ソナタと言われる「悲愴」「月光」「熱情」は、良く知られています。今回ニュースになったのは、その三作品ではなく、32曲の内、1番目のソナタのスケッチが競売に掛けられたというものです。

 この曲は、師匠であったハイドンに捧げられた曲で4楽章から成っており、1795年に完成、翌年出版されました。その最終楽章の草稿は1937年以来行方不明だったようですが、ブリュッセルに住む個人のコレクションで発見され、ブリュッセルのオークションにて 80,000ユーロ(約1,250万円)で取り引きされたようです。

 スケッチの五線紙上部は、残念ながら破れてはいますが、主要な部分は残っており、神経質っぽく、細い線で書かれた音符は、正にベートーヴェンによるものということが素人目にもハッキリと判別できます。ピアノを本格的に志すなら「ピアノの新約聖書」と呼ばれるベートーヴェンのピアノ・ソナタは避けて通れない作品です。綺麗に清書された楽譜を見るより、作曲家(ベートーヴェン)の思いが直接伝わってくる自筆譜は、遥かにインスピレーションを音楽家に与えてくれます。

 是非、皆さんもこの機会にベートーヴェンのピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調、作品 2-1 をお聴きになられてください。今回のわたしのお薦めは、クラウディオ・アラウ Claudio Arrau による演奏です。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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