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連載「つたえること・つたわるもの」(132)

「たたかひ」は両手で防御、「まもり」は目+守り。

連載 2022-03-08

出版ジャーナリスト 原山建郎

 2月24日午前5時(日本時間で正午)に始まった、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻がとまらない。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「ロシアとウクライナは、旧ソ連時代には一つの国であった。その後(1991年のソ連崩壊後)、ウクライナは独立したが、もともとは一つの民族(東スラブ人)である。近年、NATO加盟を求めるなど西欧寄りの政策をとるようになり、兄貴分であるロシアに軍事的脅威をもたらしている。ここはロシアの弟分らしく、非武装(武装解除)、中立化(実質的なロシア併合)に同意して、恭順の意を示せ」という意味の発言をくり返し、「即時停戦とウクライナ領土内からのロシア軍の撤退」を求めるウクライナとの停戦交渉は難航している。先週3月5日(土)、ロシア国防省はウクライナ国内の一部都市で「退避ルート」を設置し、一時停戦することを明らかにしたが、住民が全員退去したあとで、ウクライナ全土を一気に制圧して、ゼレンスキー大統領が率いる現政権を無力化するという意図が見え見えである。

 旧ソ連時代、KGB(ソ連国家安全委員会)のスパイ(中佐)だったプーチン大統領の頭の中には、かつての旧ソ連から独立した国々(ウクライナ、バルト三国など)を、再びロシアの勢力圏内に併合して、ヨーロッパ諸国とアメリカが主導権を握るNATO(北大西洋条約)に対抗したいという思いがあるのではないか。

 「戦争の世紀」と呼ばれた20世紀は、第一次世界大戦(1914~1918年)、第二次世界大戦(1939~1945年)、東西冷戦下のベトナム戦争(1960~1975年)、ソ連のアフガン侵攻(1979~1989年)など、はげしい戦火にまみれた。私たちは21世紀こそは「平和の世紀」と思った矢先、2001年の「9・11」(NY同時多発テロ)に対する報復攻撃=アフガニスタン侵攻(2001~2021年)、イラク戦争(2003~2011年)が勃発しただけでなく、2014年から始まったウクライナ領のクリミア危機(ロシア領編入)・ウクライナ東部紛争(親ロシア派住民との軍事衝突)が、今回のロシアによるウクライナ侵攻へとつながった。

 ところで、ロシア軍がウクライナに「侵攻する」、ウクライナ軍が国土と国民の生命・財産を「守る」ためにロシア軍と「戦(闘)う」という言葉は、どのような意味をもっているのだろうか。

 これらの漢語(漢字)の成立ちと原義(元の意味)を『字統』(白川静著、平凡社、1994年)から、また、漢字を訓読みした〈やまとことば〉の成立ちを、『字訓』(白川静著、平凡社、1995年)、『日本語の意味の構造』(野村玄良著、文芸社、2001年)の解説を参考に、その原義をさぐってみよう。

 漢語(漢字)である「侵攻」「戦(闘)」の成立ちや意味を、『字統』で調べてみる。(※)は原山の注釈
【シン/おかす・そこなう】形声。人が帚(ほうき)をもって酒気などをふりそそぎ、清め祓う意で、掃除をいう。掃除とは、儀場を清めることである。侵はこれを兵事に移して、侵略・侵暴をいう。
【コウ/おさめる・せめる】会意。工+攴(ぼく)。工は工具。攴は打つこと。工を用いて器を作ることをいう。工はまた呪具(※呪力が宿った武器)の意がある。その呪具を用いて、攻撃する意がある。
【シュ/まもる】会意。守は宀と寸に従う。宀(べん)は廟屋(※先祖や先人の霊を祀る建物)、寸は手にものをもつ形。もと廟屋を守ることをいう。
【セン/たたかう・おののく・そよぐ】会意。単(單)+戈(か)。單は盾の上に羽飾りがある形。左に盾をもち、右に戈(※ほこ:ピッケル状の長柄武器)をとって戦う。
【トウ/たたかう】形声。正字は鬭に作り、鬥(とう)+斲(たく)。斲は左に盾を執り、右に斤(おの、まさかり)を執って戦う形。鬥は髪をふり乱して手格して(※素手で)争う形。

 和語(やまとことば)の「せ(攻)む」「まも(守)る」「たたか(戦)ふ」を、『字訓』で調べてみる。
せむ〔攻〕戦って敵を攻める。「狭(せ)む」「迫(せ)む」と同系の語。また「責(せ)む」とも同源の語である。追い狭めて、敵を一方に窮迫することをいう。
まもる〔守・護・衛〕「ま」は目。目を離さずに見つめている。そのように監視することによって守護する意。(中略)国語の「まもる」は見守る意で、尊貴な人を対象とする語であるが、守は廟、護は軍、衛は城邑(※城壁に囲まれた町)を守る意の字で、それぞれ対象を異にするものであった。
たたかふ〔戦(戰)・闘(鬪)〕「たたく」を再活用した形で、うちあうこと、武器を執って戦うことをいう。(中略)国語の「いくさ」は、「いくは(弓の的)」「いくふ(射る)」「さ(矢)」などから考えて、弓矢を射ちあう戦いの方法であるが、「たたかひ」は「毆(たたか)ふ」の訓からも考えられるように、「たたきあふ」時代の語で、「いくさ」の方が後の戦闘法を示す語である。

 同じように、「まもる(まもり)」「たたかふ(たたかひ)」を『日本語の意味の構造』で引いてみる。
まもり
「マ・目」は「メ」の古形である。
(中略)「マモリ・守り」は「目」+「モリ・守り」で、基本は、監視して侵入を防御する意。目を使って守る対象は、娘・作物・建物の入り口・人の心など、幅広くさまざまな物事に限定せずに使われる。一方、「モリ・守り」だけを使う場合は、山・野・川・渡し・関所などの限定された拠点・地点を監視・防御する場合に使われる。
(『日本語の意味の構造』「素語一覧解説」225・228ページ)

 さきに紹介した「たたかふ」の解釈は、「たたきあふ(叩き合う)」時代の語とする白川静説より、『日本語の意味の構造』での「たたかひ」解釈(野村玄良説)のほうが、なぜか私の胸底にストンと落ちる
たたかひ
「タ」は「手」の古形で「手そのもの」「手の働き」「手の動き」を表す語。「タタ・タテ」この語は「盾」を立てるからではなく、両手の掌を揃えて立てて前に突き出した形状が「タタ=手手」で、これが「待て」と遮る防御の構えであり、戦場で使う防御板に命名されて「盾」になったのである。
タタカヒ=戦い」=「タタ・盾」+「カヒ=侵入を堅く防御・入口を頑丈にカフこと・周囲を堅く閉じて外界に対峙すること」である。一説には、タタキに反復・継続の接尾語「ヒ」の付いたかたち、とあるが、「タタ+カフ」の語があり「ヒ」は
(※四段)活用するので接尾語ではないので「タタキ・叩く」の意は成立し得ない。また「タタキアヒ」から変化したとの説もあるが、これも「カヒ」の意味を解析していない。
(『日本語の意味の構造』「素語一覧解説」165~166ページ)

 これらの漢語(漢字)・和語(やまとことば)の由来検索により、二つのことが明らかになった。

 ①今回のロシアによるウクライナ侵攻は明らかな「侵略・侵暴」であり、プーチン大統領が今回の「特別軍事作戦」を「侵攻」、「戦争」と表現した場合は、虚偽情報と見なして、先週、最長で懲役15年を科す法案に署名したことからも、かつて旧ソ連時代(1930年代)の最高指導者、スターリンが行った「大粛清(反革命罪による逮捕・投獄・処刑)」の21世紀版「大粛清」ともいえる。

 ②ウクライナのNATO加盟阻止、核兵器製造疑惑、東部地域のロシア系住民への迫害など、さまざまな言いがかりを押し立てて、ウクライナに侵入したロシア軍を命がけで押し返そうとするウクライナ軍や市民の抵抗は、ウクライナの国土・文化、国民の生命・財産を守るために、監視して侵入を防御する「まもり(目+守り)」の行為であり、まさに「両手の掌を揃えて立てて前に突き出し、待てと遮る防御」であり、これは専守防衛としてのやむなき「たたかひ(左右の手を交叉する防御の姿勢)」だといえるのではないか。

 ウクライナ民謡の『コサックはドナウを越えて』は、戦場に赴くウクライナ・コサック兵(ウクライナや南ロシアの農民兵。15世紀以降、ウクライナ中央を流れるドニプロ川流域に広く存在した。コサックは「自由な人」「豪胆な人」を意味する)と残された恋人とのつらい別れを歌ったものである。

コサックはドナウを越えて/こう呼び掛けた「娘さん、さらばだ!/おい、黒毛の馬よ/俺を乗せ駆けろ、そして嘶け!」
「待って、待って、コサックよ/あなたの恋人は泣いている/私を見捨て還ってこなかったらー/そのことだけを思い詰めて!」
行かなければよかったのだろう/愛さなければよかったのだろう/そして知り合わなければよかったのだろう/いま、お互いを忘れるときがきた
行かなければよかったのだろう/愛さなければよかったのだろう/そして知り合わなければよかったのだろう/いま、お互いを忘れるときがきた

 この歌詞は、戦乱のウクライナからポーランド、ハンガリーなど、周辺諸国へと脱出する数百万人の避難民(多くは女性・子ども・高齢者)たちと、国内に残って祖国を守るために戦う18歳から60歳までの男性市民(一部は女性も)との悲しい別れを想起させる。

STOP WAR! NO WAR IN UKRAINE PLEASE!

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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