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連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」③

タイヤの天然ゴム原料はゴムの木からのあの白いラテックス液ではない?

連載 2017-02-07

ゴムの木とRSS3原料のラテックス液


加藤事務所代表取締役社長 加藤進一

 天然ゴムは一年中採れるわけではありません。国にもよりますが、だいたい2月から5月はゴムの葉っぱが落ちる落葉期になり、ゴムの木からラテックスが出てくる量が減ります。

 よって天然ゴムの生産量が減ります。特にベトナムでは基本的にはこの時期は木からラテックスを採ってはいけないことになります。これは木の寿命を延ばすために必要な処置です。アジア全体ではこの時期の天然ゴムラテックスの生産量はだいたい通常の半分ぐらいになります。木からでるラテックスは保存ができません。すぐに腐ってしまうからです。だからこの天然ゴムの生産は、春は落ち込みます。しかしタイヤの生産はこの春先に生産量を減らすとは聞きません。ではどうするか?秋から天然ゴムの生産を増やして、在庫を備蓄します。だから1月に天然ゴム加工工場に行くと、山積みの天然ゴムの在庫が見られます。

 よく街の喫茶店にゴムの木らしい木がありますが、この葉っぱの表面がつやつやの木はゴムの木ではありません。本当のゴムの木はもっと葉っぱが薄く、落葉樹です。クヌギやブナの葉っぱに近いです。このゴムの木の幹の表面から出てくる白い液がラテックスです。幹の表面より数㎜内側で天然ゴムラテックスが生成されています。この白い液がタイヤの原料であるといいますが、実はそれは40年前の話です。今は日本で生産されているタイヤの60%以上はこの白い液からつくった天然ゴムを使用していません。この白い液から天然ゴムRSS3グレードを作りますが、今はタイヤではRSS3を使うより、生産コストが安いTSRグレードを使うケースが多くなっています。

 TSRグレードは天然ゴムの木の幹を傷つけて出てくる白い液そのものではなく、幹の外側につけたカップの中で、この白い液が固まった、固形の硬い豆腐みたいな、スポンジ状の、そして強烈に臭い、固形のカップランプを原料にしています。このカップランプは、色が中は白色ですが、外側は褐色に近く、汚れた色です。中に泥、砂、埃、小石を含んでいるからです。固まった接着剤みたいなものです。このカップランプを機械で砕いて、流水で洗い、中に含まれていたごみを洗い出します。洗濯機で洗っているみたいなものです。洗ったすすぎの水は汚れでひどく泥色です。ゴムの中の泥が落ちていきます。この砕き、水洗をふつう3回繰り返します。それでやっとやや白くなってきます。それを乾かして天然ゴムTSRができあがりです。

タイヤ用天然ゴムTSRグレードの原料カップランプ


 このカップランプは在庫してためておくことができます。だから春でも天然ゴムTSRは生産量をそれほど減らさず生産を維持できます。これも天然ゴムの生産コストが安くできる要因です。

 天然ゴムを作っている人は、天然ゴムは天産物、農産物だといいます。だから異物に対する考え方がぜんぜん違います。ごみがはいっても仕方がないという感じです。これをタイヤ会社がいろいろ製造工程を指導して、天産品を工業用原料に転換しているのです。加藤事務所もベトナムで天然ゴムの製造と販売をしていますが、その農産物を工業用原料に変える最前線にいて苦労しています。

 日本の合成ゴムの生産量は定期修理の時期でもなければ、毎月一定です。しかし天然ゴムは季節によって生産量がかなり変わります。だから春先は天然ゴムの価格が上がり、5月に下がるといういつものパターンになるのです。

 しかし今年はちょっと違う。2016年11月から世界の余剰資金が天然ゴム市場に流れ込み、マネーゲームになってしまいました。今東京商品取引所で天然ゴムを買っている会社はタイヤ会社ではありません。ほとんどが証券会社です。そのバックには世界中、特に中国筋のファンド、投資家がいます。ゴムのことをほとんどわかっていない人が、ただ今上がる商品が天然ゴムなので、私も追っかけで買ってみようとして買いを入れています。またはファンドの投資プログラムが自動的に高速売買で買いを入れているのです。タイヤ等の実需の人からみると全く迷惑な話です。こういう投機はどこかよその場でやってほしいものです。今後天然ゴムの価格がさがるかどうか、これはわかりません。

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