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とある市場の天然ゴム先物 16

TSR先物・タイの承認工場追加の背景を語る!

連載 2021-06-08

承認工場の変遷と今回の工場追加の背景

 ところで2018年にTSR20先物の取引を開始した当初、多くの受渡品を確保する観点から、タイの51 工場を承認工場として指定していました。

 ところが実際に取引が開始して受渡しが行われたところ、特にPre-Breakerと呼ばれる機械を使用して製造されたTSRが中国国内で一般的でないなか、このPre-Breaker使用のTSRが受渡供用品に含まれていたことから、これらを除外して欲しいという要望が市場参加者から上がりました

 また、SGXやINEといった他取引所のタイの承認工場と比べて数が多く、かつリストにも相違が多かったため、取引所間の裁定取引をやりにくいという意見もありました。

 そうしたなか、2019年7月よりTSR20先物の取引高が目に見えて減少していきます。

 そこで起死回生策として、2020 年3月27日に受渡供用品の要件を「Pre-Breakerを使用して生産されたものを除く」と変更し、Pre-Breaker使用品のみを生産している工場をリストから除外したうえ、更に裁定取引の利便性拡大を狙って海外市場でTSRを取引する投資家にも広く認知されている工場に絞った結果、承認工場数は当初の51工場から21工場となりました。

 ですがその後にコロナ危機が発生したことなどもあり、残念ながら市場流動性は回復せず、2020年以降は取引も発注もほとんどない状況になってしまいました。

 まさに危急存亡の秋・・・とのことで、2021年3月よりTSR市場振興策(TSRインセンティブ・プログラム)を開始し、マーケットメイカーを呼び込むことで市場になんとか最低限の気配注文は出るようになっています。

 ですがこのTSR先物市場の取引が活性化するには、マーケットメイカーや金融系プレイヤーの参入だけでは十分でなく、実需筋を含めた様々なプレイヤーが市場に参加し、グローバル・サプライチェーンの一部として機能する必要があります。

 そうしたなか、タイの大手ゴム製造会社より新しい3工場の承認申請を受けることとなりました。

 この3工場は海外取引所で承認されている工場という訳ではありませんが、取引制度要綱に定められた「Pre-Breaker使用品を受渡供用品として提供しないこと」を満たし、かつ国内外の実需家より「受渡提供品となることについて問題はない」とのフィードバックを得たことから、追加を決定することになりました。

 今回の承認工場の追加により、売り手のゴム製造会社やその顧客といった買い手がTSR先物市場を活用するきっかけとなる可能性がありますので、小さな一歩ですが市場振興に向けた偉大な一歩になることを期待しているところです。

 なお追加となった承認工場ですが、2021年7月限(取引最終日は2021年6月30日)に係る受渡決済分から適用されることになります。

※次回の更新は2021年6月22日(火)頃の予定です。

【参考資料】
日本取引所グループ「商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領」
Shanghai International Energy Exchange “TSR product list”
Singapore Exchange “SICOM TSR20 Approved TSR Factory List”
TOCOM「ゴム市場・受渡供用品の要件及び承認工場の見直しに係る規程変更について」

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