連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(27)
注文しても供給されないゴム原材料がある?
連載 2021-03-01
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
日本では、製造会社や材料商社にゴム原材料を注文して納期を指定すれば、必ず納入されると考えている方が多いと思います。もちろん価格、納期の変更はありますが、「供給できません。無理です」と言われることは稀です。日本の原材料メーカーはたとえ自社工場の一部に不具合が生じても、ユーザーの製造ラインを停止させないように、またゴム製品の最終ユーザーである自動車生産ラインを止めないように、何とか供給を途絶えさせないように必死に生産して、供給してきました。海外工場で生産して日本に空輸する。工場復旧後24時間稼働させる。ゴム材料ではありませんが、某自動車部品はヘリコプターで輸送して間に合わせたという話もあります。自動車生産ラインを停止させると、1時間数千万円のペナルティーが発生するともいいます。必死になって原材料の供給を考えます。
しかし、どうもこれは日本独特の考え方、商慣習とも言えます。世界にはフォースマジュール Force majeure(略称FM)、意味:不可抗力という言葉があります。海外との取引契約書にこの項目があることがあります。このフォースマジュールで供給が止まることは戦争、暴動、洪水がそれにあたります。しかし日本で考えられているよりももっと広い範囲のことを含みます。自社工場の火災、自社の労働争議、原材料の生産に使う原料、エネルギーの調達もフォースマジュールの対象です。日本的に考えると、それは自社の問題なので、なんとかしろと考えてしまいますが、欧米の会社は簡単に(?)フォースマジュール宣言を出します。
一般的にフォースマジュール宣言を出すと、注文受付を停止して、その後の供給については、どのユーザーにも平等に扱うことになります。このユーザーは従来から重要な顧客だから、このユーザー向けの供給と止めると、某自動車メーカーの製造ラインを止めてしまい大損害金が発生するからという忖度は一切ありません。欧米的にいうと、フォースマジュール宣言後は、その後の供給優先度の順位でユーザーから訴えられることを防止する。遅れによるペナルティーを支払わない宣言という意味があります。ここが日本とちょっと違う点です。
日本では2021年初めにEPDMが不足。ゴム練りラインの能力が削減され、納期遅れ。シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンアクリルエラストマーの納期遅延等のいろいろな問題が発生していますが、どのユーザーに供給していくかは、いろいろな要素を考慮して検討されているようです。
欧米ではまずフォースマジュール宣言を発して、それから復旧を急ぎ、その後宣言前に注文受付した順に出荷していくことが基本になります。
米国では2021年2月中旬現在以下のフォースマジュール(またはそれに準じる)宣言がでています。
LION ELASTOMERS 合成ゴムSBR → 冬の嵐による天然ガス不足と輪番停電で生産停止
CONTINENTAL CARBON カーボンブラック → 輪番停電で一時生産停止
HEXPOL Jonesborough工場 ゴムコンパウンド → 火災にて工場閉鎖
BASF USA ウレタン原料MDI,TDI → 寒波の影響を受け一部設備に凍結による損傷発生
これ以外にもフォースマジュール宣言はでていませんが、2月には北米地区では、PPGのシリカが納入2週間遅れ、日本ゼオンが米国への海上輸送の遅れ、港の混雑で入荷遅れ、LION ELASTOMERSのEPDMが出荷量割り当て中でさらに2月の寒波で4日生産停止、EXXONMOBILのEPDMが出荷量割り当て中、CABOTメキシコが天然ガス不足で生産量低下、ARLANXEO HNBRが寒波による停電と原料の入荷遅れで定修再開の遅れと玉制限中、といろいろ原材料の不足、供給遅れが発生しています。
フォースマジュール宣言を出てしまうと、「どうしようもない」ということになります。「なんとかしろ」と言っても駄目です。
こう考えると従来からBCP(事業継続計画)の観点から、複数購買、複数の原材料の社内承認が大切だと思います。
石油化学データICIS社のサイトに2021年2月24日に表示されたLION ELASTOMER社SBR工場(テキサス州PORT NECHES工場)の2月17日フォースマジュール宣言の記事
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