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連載「つたえること・つたわるもの」(95)

〈からだ〉によい汗・悪い汗、心地よい「快汗」をかく。

連載 2020-08-11

 一つ目の味覚性発汗は、辛(から)いものを食べたときに、額(おでこ)や鼻などにかく汗。汗をかいて頭や顔の温度を下げ、熱に弱い脳(頭部)を冷やすためにかくもので、タイ料理の激辛スープ「トムヤムクン」を飲めば、だれでも体験できる。日本語の「辛い味」を、英語では「熱い」を意味する「ホット(hot)」という。

 二つ目の精神性発汗は、緊張や興奮したときにかく汗。「手に汗にぎる」「手に汗をかく」ときがこれ。手のひらや足の裏、腋の下などで、発汗は短時間。ウソ発見器は手のひらの発汗による通電量の変化で、被験者の心理的な動揺を読みとる。また、顔から血の気が引いたときには、「冷汗をかく」ことがある。

 三つ目の温熱性発汗は、上がりすぎた体温を下げるために、からだ全体にかく汗のこと。水分が蒸発するときに熱を奪う気化熱の原理で、真夏の打ち水効果をもたらす。気温(室内温)が上がると、最初にからだのミネラル分と水分が汗腺にとり込まれる。健康な人ではミネラル分をからだの外に出さず、大部分が血液に再吸収され、水分だけが汗となって皮膚から出て行く。真夏に激しい運動を行うと、1時間に約2リットルの汗をかく。汗をかく部位は、手の裏、足の裏を除く全身で、これは「よい汗」と呼ばれている。

 ところが、ふだん汗をかかない生活の人は、徐々に汗腺の機能が低下して、ミネラル分の血液への再吸収が妨げられる。このような人が炎天下で大量の汗をかくと、水分だけでなく貴重なミネラル分までも流出してしまう。これは「悪い汗」のひとつで、ナトリウム・カリウム不足による内臓の機能低下、カルシウム不足による骨粗鬆症を引き起こす。一般的には体温が上昇すると汗をかくように交感神経が働き、血管が拡張して全身に血液が送り込まれる。ところが、冷房の効いた部屋での仕事など、汗をかかない生活は交感神経を鈍らせるので、汗をかくべきときに肝心の汗が出てこないで、全身に血液が行き渡らない状態となる。よく夏バテと間違えられる、全身の倦怠感、立ちくらみ、めまいなどの諸症状は、冷房病、自律神経失調症の一種と考えられる。もうひとつの「悪い汗」は、「汗のかきすぎ」である。たとえば、太った人は皮下脂肪(※断熱効果が高い)が厚いため、体内で発生した熱を放出しにくく、たくさん汗をかく。また、スリム体型で健康な人であっても、はげしい運動などで大量の汗をかいたときは要注意。

 汗の成分はほとんどが水分であるが、塩化ナトリウム約0.65%、尿素約0.08%、乳酸約0.03%などが含まれている。しかし、短時間に大量の汗をかくと、塩化ナトリウム、つまり塩分が相対的に上昇して、限りなく0.9%に近づく。これは、体内での再吸収が妨げられて、からだが必要とする塩分(NaCl)に含まれるナトリウム(Na)分が不足し始めたという警告である。ナトリウムは血液の浸透圧を調節して、血液中の水分の増減をはかり、血圧をコントロールする。体内の水分を適正に保つために、ナトリウムは重要な働きをしている。大量の汗をかいたときは、脱水症状を防ぐ水分補給だけでなく、生体機能を調節するための塩分補給が鉄則である。「のどが渇いた」と思ったときではもう遅い。一日何回でも水分補給を心がけよう。

 気持ちのよい汗、身心をリフレッシュさせる快汗は、庭仕事に精を出したあとの木陰で涼風を感じる額(おでこ)の感覚。吹き出す汗に団扇で風を入れるだけで、さわやかな快感(快汗)をもたらしてくれる。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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