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連載「つたえること・つたわるもの」(82)

「一隅を照らす」というミッション――〈今いる場所で希望の灯をともす〉

連載 2020-01-28

 さて、一定期間、入院・治療を受けた「医療ケア児」は、その後、自宅で家族(訪問看護)による「医療的ケア(医療的援助)」に委ねられる。入院中であれば、医療の専門家である医師や看護師がやってくれるケアを、自宅では両親が交替しながら24時間、365日、休むことなく見守りつづけなくてはならない。

 講演の中で、NHK「クローズアップ現代」がとりあげた「医療的ケア児」特集番組が紹介された。たとえば、“たんの吸引”が必要な子どもの母親は、昼間はもちろん夜間寝ているときも「(たんのからむ)ゼロゼロ」の音がしないか注意し、「ゼロゼロ」が聞こえると、すぐに飛んで行って“たんの吸引”を行う。だから、わが子のそばを片ときも離れられない。ほとんど眠る時間がないような状態が、毎日のように続く。

 このような重い病気をもつ子どもとその家族は、次のような悩みを抱えているという。

子どもの悩み 保育所・幼稚園に行けない。/外で遊びたい、もっと友だちがほしい。

親の悩み 24時間、365日続く介護のため、睡眠時間が少ない。/(自宅から離れられないので)地域の人との交流や悩みを共有できる機会が少ない。

○(医療的ケア児の)兄弟・姉妹の悩み 家族と過ごす時間が少ない。/病気の子どもが優先されるため、どうしても我慢することが多い。

 国立成育医療研究センター病院棟の南西に隣接する二階建ての「もみじの家」は、自宅で医療ケアを受けている子どもと家族を短期間受け入れ、ひとり一人の子どもが子どもらしい生活、くつろいだひとときを過ごせるよう、さまざまな医療ケアに対応する「医療型短期入所施設」で、医師(病院と兼任)、専任の看護師、保育士、介護福祉士、理学療法士などとともに、同世代の子どもたちと遊んだり学んだりするなど、自宅ではなかなかできないことをして過ごすことができるような体験の場を提供している。

 私たち遠藤ボランティアグループは、首都圏にある9つの病院や介護施設での究極の傾聴をめざしながら、つねに学びつつボランティア活動を行うグループだが、内多さんが講演の中で紹介したNHK「クローズアップ現代」(動画)を視聴する中で、重い病気をもつ子どもが「もみじの家」滞在中に見せた〈天使の笑顔〉や、わが子を「もみじの家」に預けて、久しぶりに外食を楽しむ両親のほっとした表情を見つけた私は、遠藤周作さんがよく言っておられた「病院はチャペルである」ということばのように、この「もみじの家」は「医療ケア児」とその家族を癒すミッションを与えられた、新しい「チャペル」なのかもしれないと思った。

 基調講演が終わったあと、NHKの看板アナウンサーであった内多さんがその職を辞して着任した「もみじの家」ハウスマネージャーこそ、マザー・テレサのいう「日本のカルカッタ」、つまり「内多さんのカルカッタ」ではないかと申し上げると、「なるほど、そのように考えたことはありませんでしたが、たしかに、私にとってのカルカッタなのかもしれませんね」ということばと、とびきりの笑顔が返ってきた。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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