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連載「つたえること・つたわるもの」(76)

ナチュラル・ダイイング、自然な〈お迎え〉を阻むもの。その1

連載 2019-10-24

 医師で免疫学者の多田富雄さんは、『あけぼの』(聖パウロ女子修道会機関誌)誌上での作家・木崎さと子さんとの対談で、生命を救うことは教えても、死は常に敗北であるとしか教えていない現代の医学教育の問題点にふれながら、これからは「救死」という視点も必要であると指摘している。拙著『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫、2001年)から、その一部を紹介しよう。

 今、医療で救急・救命には非常に重きを置かれていますが、救死ということも重要な医療だと思うのです。救命医療の現場の医師は、ほとんど建築現場の監督のように飛び回り、切った貼ったの仕事をしています。今は新しいタイプのエンジニア的医者が生れつつあり、専門の技術者としての高度なトレーニングを受けています。それはもちろん大事なことですが、これほど救急・救命が叫ばれているのに、救死ということは言われません。患者がどのように安らかに死を迎えるかということについて、医者は全く教えられていないのです。
(同書254~258ページ)

 人間は必ず死ぬ。つまり死亡率100%の生きものである。かつて多田さんが医療にとって重要なテーマだと提言した「救死」の思想はいま、自然な〈お迎え〉の迎え方という岡部医師の遺言として、そして在宅緩和ケアの現場で奮闘する、心あたたかな医療者、臨床宗教師の人々にしっかりと引き継がれている。
次回の「ナチュラル・ダイイング、自然な〈お迎え〉を阻むもの。その2」では、人生のラストシーンにあらわれる〈お迎え〉現象について、湘南中央病院在宅診療部長の奥野滋子医師の著書『「お迎え」されて人は逝く――終末期医療と看取りのいま』(ポプラ新書、2015年)をもとに考えてみたい。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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