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連載「つたえること・つたわるもの」(76)

ナチュラル・ダイイング、自然な〈お迎え〉を阻むもの。その1

連載 2019-10-24

 大病院のウエブサイトには、「胃ろうは、食事が口から摂れない患者さんや体力低下を防ぐ必要のある患者さんのために有効な治療法です。高カロリーの栄養輸液を体内の中心に近い太い静脈から継続的に入れる方法です。通常の腕の細い血管の点滴とは違い、太い静脈からのため血管を刺激しないで苦痛なく必要な栄養分を補えます」などと書かれているが、ここに「点滴をせず、黙って見守る」姿勢は見られない。

 終末期に発症しやすい誤嚥性肺炎、血圧低下、脱水症状……、これらはすべて自然な〈お迎え〉をからだが生理学的に準備する、ナチュラル・ダイイング・プロセスなのだと、岡部さんはとらえている。

 「認知症で誤嚥性肺炎を繰り返すようになると、もう最期の時期に近いんですよ。今回は治療しますが、治らない可能性もあります。これまでご家族も頑張ってこられたし、ここで看取られる可能性は高いと思いますが、どうしてもとご希望されるのであれば、胃ろうという方法もないわけではありません」

 医療者はなぜ家族にそう説明しないのだろうか。この期に及んで、一分一秒でも生かさないと恥だと思っているのだろうか。
「胃ろう、入れなければ死にます。入れます?」としか言わないから、家族は茫然として「入れてください」と言うしかないのである。それに加え、死を受け止める側にも、死とはどういうものであるかという価値観が崩壊しているから、胃ろうを造設してでも生かしてほしいとなるのだ。

(同書230ページ)

 死期が近づくと患者さんは食べられなくなり、水分を受け付けなくなり、血圧が下がり、嚥下ができなくなる。これがナチュラル・ダイイング・プロセスである。血圧が下がって脱水症状になり、脳循環の機能が低下した結果、「お迎え」現象が出現するようになっているのかもしれない。

 それは機能というよりも、人間の潜在意識の中に組み込まれているようにも思う。点滴をすると、脳循環が最後まで機能するから、つらくて苦しくなるのである。ところが病院では、患者さんは医療の監視下におかれ、診断行為をやらないわけにはいかない。たとえば、脳の血流障害があれば昇圧剤を入れ、アンモニア濃度が上がれば下げる薬を点滴する。食べられなくなったらIVH(中心静脈栄養)や胃ろうで栄養を補給し、飲めなくなったら点滴をする。挙句に、「お迎え」が来たら、抗せん妄剤を投与してせん妄が出ないようにするから、「お迎え」を見る自然死の条件を壊しているのである。

(同書190ページ)

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