連載「つたえること・つたわるもの」(76)
ナチュラル・ダイイング、自然な〈お迎え〉を阻むもの。その1
連載 2019-10-24
肺がん専門医で自らも肝臓がんを病んでいた岡部さんは、「人間の体は、どこの臓器が不全になっても苦痛が除去できるようにつくられている」として、自然な〈お迎え〉現象を生理学的に解説している。
たとえば、肺がんが進行するとCО2ナルコーシス(※二酸化炭素の呼吸調節系への麻酔作用)といって、血中のCО2濃度が上がって中枢神経や呼吸中枢を抑制する。炭酸ガスには麻酔作用があるから、脳内のβエンドルフィン(※脳内で働く神経伝達物質の一種。鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られるため、脳内麻薬とも呼ばれる)を活性化させて穏やかになり、夢見がちになって苦痛なく旅立てるようになっているのである。
肝臓が悪くなって肝不全になれば、高アンモニア血症といって(※血中の)アンモニア濃度が高くなって夢見がちになる。骨が侵されたら、やはり高カルシウム血症で夢見がちになる。これらは人が亡くなる過程の生理現象であり、死の苦痛を除去する自然のメカニズムなのだ。(中略)
ときとして終末期の患者さんは、顔をゆがめたりしてつらそうに見えるが、実は本人たちはいい気持であの世に旅立ち始めているのである。
CО2ナルコーシスであろうと、高カルシウムであろうと高アンモニアであろうと、人間には死ぬ前に余計な治療をしなければ、誰でも夢の世界に入って、苦痛なくあの世に旅立てるメカニズムが備わっているのである。
(同書191~192ページ)
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