連載「つたえること・つたわるもの」(64)
声に出して読みたい『萬葉集』、琉歌で詠まれた『歌声の響き』。
連載 2019-04-23
長歌は5音と7音の句を3回以上繰り返す形式の和歌で、しだいに5・7音の最後に7音加えて結ぶ形式になっていった。日本人が大好きな「5・7調」のリズムで、暗唱する楽しみが倍加する。「声を出して読む万葉集」は、もちろん「旧仮名遣(歴史的仮名遣)」による暗唱、または詠唱である。
万葉集が編まれた時代の大和言葉(やまとことば)の発音と今の時代の発音は異なっている。たとえば、「私は」の「は」を、私たちはwa(ワ)と発音するが、奈良時代にはpa(パ)とfa(ファ)の間だったのが、江戸時代になってwa(ワ)と発音するようになったそうだから、「とりよろふ」を「とりよろう」と発音しても、奈良時代の発音を知らないからできない現代人にとっては、いたし方のないことである。私が大学で学生たちに、「旧漢字や旧仮名遣いを使って、文章が書けなくてもよいが、旧漢字旧かな遣いで書かれた日本の古典(文字や文章)を読める能力だけは養ってほしい」と訴えたのはこのことで、旧漢字からは文字の成立ちを、旧かな遣いからは上古代日本人のエートス(心性)を感じとってほしいものだ。
ちなみに、【題詞】にある[息長足日廣額天皇(おきながたらしひ ひろぬかのすめらみこと)]は、和風の諡号(崩御後のおくり名)で、いわゆる漢風の諡号(しごう)は「舒明天皇」である。
歴史的仮名遣いといえば、沖縄(琉球)には、「琉歌(琉球方言による定型詩)」がある。『縄文語の発見』(小泉保著、青土社、1998年)によれば、原初の日本語(原縄文語)は、前期九州縄文語を起点に、一つのルートは九州全域に広まると後期縄文語→九州方言に、もう一つのルートは南下して琉球縄文語→琉球諸方言(沖縄・奄美諸島)になったと考えられている。ウチナーグチ(沖縄口)と呼ばれる沖縄方言で詠われる「琉歌」は、漢字の音韻を借りた万葉仮名(やまとことば)による和歌から表現を借りながらも、沖縄方言の語彙を用い、沖縄の音韻(リズム、抑揚)を生かして、独特の詩歌として発展してきたという。
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