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連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」⑮

合成ゴムの価格は原油ナフサ価格で決まる?

連載 2019-03-05

加藤事務所代表取締役社長 加藤進一

 この業界でいろいろな仕事をしていると、合成ゴム、天然ゴムの価格はどうやってだれが決めているのか、わからなくなることがあります。もちろん合成ゴムメーカーの営業部が今月はこの価格にしようと販売価格を決めようとしていますが、その価格はどうやって決めるのか?

 かつては、合成ゴムの価格はユーザーと相対交渉で決めていました。次回の交渉が決まるまでは、今の価格が有効ということです。原料ブタジエン、ナフサ、エチレン、プロピレンの調達コストが上がってくると、合成ゴムの値上げを打ち出します。原油、ナフサ価格があがると基本的にブタジエン価格が上がります。今までのデーターをみると、ナフサが¥10/㎏上がると、ブタジエンはその倍¥20/㎏上がることが多いようです。下がるときはその逆です。ブタジエンは ナフサの分解、クラッキングで作りますので、ナフサはより主要なエチレン、プロピレンの需要に応じて作られます。ブタジエンが足りないので、ブタジエンだけが欲しいといっても、その理由だけナフサの分解クラッキング量を増やすこともできません。よって不足するとすぐに増産して供給量が増えず、アジア地区ではすぐに価格が上がります。アジアの価格が上がると、それをみてヨーロッパからアジアにブタジエンが船で持ってきますので1ヵ月後に不足が解消されます。ブタジエンは余ると燃やすしかありません。合成ゴムかABS原料ぐらいしか主な用途がありません。昔は川崎価格と言って川崎地区のブタジエン価格指標というものがありました。確か¥20/㎏ぐらいだった時もありました。今では信じられないような安値です。今ではブタジエン価格が$700/MTぐらいまで下がると安くなったなあと感じます。

 10年ほど前まで合成ゴムの価格を値上げしようとするときには、メーカーの販売担当者が商社の人といっしょにユーザーに値上げのお願いに行って、何回かの交渉ののちに値上げの時期、幅が決まっていました。ユーザーごとに何回かの交渉が必要でした。また値下げもありで、原油が下がってくると、ユーザーがメーカーに値下げを要請し、これも何回かの交渉で値下げが決まるというやり方でした。どこの大手ユーザーの値上げがもう決まったとか、まだ某社がまだ値上げをのまないという情報も飛び交いました。また買う方もお互い情報交換をして、まだ値上げをのむ時期ではないと判断したこともありました。資材委員会での話も、その会の後の喫茶店での打ち合わせが、という噂もありました。

 それが、今では3ヵ月ごとに決まる国産ナフサ価格と、アジアのブタジエン価格(ICISやPLATTS社が発表する相場価格)をベースにフォーミューラ(計算式)に応じて、3ヵ月ごとに価格を変更することが一般的になってきました。これで交渉の手間が省けます。これは原料価格の変動を合成ゴム価格に反映させるものですが、市況(合成ゴムが余る、足りない、不足すれば価格が上がる、余れば下がる、人件費があがる、物流費が上がる)を反映しているものではありません。国内価格では、合成ゴムが不足、余るということは無視して(?)を価格が決まってきました。また自動車産業お得意の絶え間ないコストダウンのいう考え方もこのフォーミューラ制価格とはなじみません。

 しかし輸出となると、市況、需給バランスが主な価格ファクターになります。いくら原料が安くても、合成ゴムが不足すれば、価格が上がります。かつ毎月(場合によっては2週間ごとに)価格が需給バランスをみて変更されます。EPDMのように、いくら原料のエチレン、プロピレン価格が上がっても、米国、サウジアラビアから安いEPDMがアジアに流れ込んでくるとアジアのEPDM価格が上がりません。コンテナ単位であれば、アジアには合成ゴム種別の毎月の相場価格が存在します。

 原料フォーミューラ制の価格がいいのか? 需給バランスを反映した市況価格制がいいのか、わかりません。自動車産業では原料フォーミューラ制(原油価格連動)でゴム部品価格が決まりますので、自動車ゴム部品メーカーは原料フォーミューラ制で買う方が収益は安定するでしょう。もっとも大手自動車ゴム部品メーカー(東証一部上場企業)の中にも原料フォーミューラ制ではなく市場価格とコストをベースに毎回交渉で価格を決める会社も複数社あります。少なくともアジア地区ではフォーミューラ制で合成ゴム価格を決めているゴム会社は少数派です。

 米国では合成ゴムの価格は毎回交渉で市況を反映して決め、一方カーボンブラックは原油価格に連動したフォーミューラ制が一般的です。日本とまったく逆です。

 下のグラフはSBRの2017年からのアジア市況価格の推移です。その下は2017年からの原油、国産ナフサ価格です。よくみると、価格の動きが一致しません。また変動幅も異なります。2016年末に天然ゴム価格急騰につられて、ブタジエン、SBRの価格が上がり、一方2018年は原油ナフサ価格がずっとあがってきましたが、SBRの価格の上昇は緩やかでした。中国での合成ゴムの需要が増えず、合成ゴム、ブタジエン価格があまり上がりませんでした。

アジアの合成ゴム価格は需給バランス、原料コストにより毎月(毎週)変動します。



原油価格と国産ナフサ価格の推移( ゴム報知新聞2018年11月5日号 日本ゴム工業会第15回幹事会報告より)
2017年1月から2018年10月を見ると、上のアジアSBR1502市況価格と原油、ナフサ価格の動きがあまり一致していない。
変動幅がかなり異なる。



 こう考えると、今の日本のように合成ゴムの価格は原油、ナフサで決まるという常識が世界では非常識なのかもしれません。

 天然ゴムの価格はどうやって決まるのか? これも奥が深い話です。中国市場?東京市場?シンガポール市場? 需給バランス? 製造コスト? この話は次回にします。

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