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連載「つたえること・つたわるもの」(57)

「おはよう」は、予祝という祈りの〈あいさつ〉。

連載 2019-01-22

 やはり文庫版「あとがき」の中で、内田さんは「贈与と返礼」の黄金法則について述べている。

 ☆自分が欲するものを他人にまず贈ることによってしか手に入れることができない。それが人間が人間であるためのルールです。今に始まったことではありません。

 ☆祝福の言葉を得たいと望むなら、まず僕のほうから「あなたはいつまでも幸福でいてもらいたい」という言葉を贈らなければならない。まず贈与することからすべては始まる。

 ☆予祝に対しては予祝を以て応じなければならない。「おはようございます」に対しては「おはようございます」と返礼することが義務づけられている。

 「おはようございます」という言葉は、「きょう一日があなたにとってよき日でありますように」という意味が込められた〈あいさつ〉である。「おはよう」という単語には、ただ「時間が早い」という意味しかないのだが、日本人の〈あいさつ〉には、あらかじめ(予)――相手の幸せの実現を――ことほぐ(言祝ぐ)予祝の思いが込められている。「こんにちは」「こんばんは」の〈あいさつ〉も同じである。

 というようなことを書くと、「贈与するも何も、僕は赤貧であって、他人に与えるものなんか、何もありません。それよりもまず僕に何かください」と口を尖らせて言う人が出てくるかもしれません。
 でも、残念ながら、「そういうこと」をいう人は、その言葉によって自分自身に呪いをかけていることに気づいていない。そういう人はそのあと仮に赤貧から脱することができたとしても、「私は十分に豊かになったので、これから贈与をすることにしよう」という転換点を見出すことができません。いつまでも「貧しい」ままです。

(同書文庫版「あとがき」283ページ)

 つまり、気持ちよく〈あいさつ〉を交わすことが、「贈与と返礼」の黄金法則であり、それが「〈あいさつ〉のちから」なのだ。「おはようございます」と〈あいさつ〉されたら、「おはようございます」と〈あいさつ〉を交わすように、「こんにちは」「こんばんは」「おやすみなさい」の〈あいさつ〉を交わそう。

 日ごろから愛する家族や友人たちと、どのような〈あいさつ〉を交わしているだろうか?

 おはよう(ございます)/こんにちは/お久しぶり(です)/お元気ですか/お世話になります/こんばんは /おやすみ(なさい)/さようなら/また明日(会おうね)/お先に失礼します/ありがとう(ございます)/おかげさま/いただきます/召しあがれ/ごちそうさま(でした)/いってきます/いってらっしゃい/気をつけて/ただいま/おかえりなさい/おつかれさま(でした)

 「あなたを笑顔にしてくれる言葉はなんですか?」(2010年の住友生命調査)の第1位(48.4%)、「日本人の好きな言葉」(2008年のNHK放送文化研究所世論調査部調査)の第1位(67%)、どちらも「ありがとう」だった。「ありがとう」には「ありがとう」で応える、予祝という祈りの〈あいさつ〉。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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