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連載「つたえること・つたわるもの」(52)

新卒一括採用――終身雇用制、日本独自の「苗代」という方法。

連載 2018-11-13

 また、神戸女学院大学名誉教授・内田樹さんは、長期連載ブログ『内田樹の研究室』(「七人の侍」の組織論)で、あらゆる組織(会社などの共同体)には、必ず「オーバーアチーブする人」と「アンダーアチーブする人」がいると述べている。これはたとえば、私がさきに挙げた「十人前」の仕事を任された人が「オーバーアチーブする人」で、「半人前」の新卒社員は「アンダーアチーブする人」である。したがって、中途採用など実務経験者の即戦力重視も「オーバーアチーブ」のみ採用を狙ったもので、経団連企業は「アンダーアチーブ(半人前)」を「一人前」に育てる余裕がない、やらないと宣言しているようなものだ。

 同じように、省庁や地方自治体の「障害者雇用水増し」問題を考えるときも、「外国人労働者受入れ拡大(移民)」問題を考えるときも、次の一文をよくよく噛みしめて読むべきではないだろうか。

 あらゆる共同体では「オーバーアチーブする人」と「アンダーアチーブする人」がいる。必ずいる。全員が標準的なアチーブメント(※仕事の遂行能力&成績)をする集団などというものは存在しない。存在する意味がないから、「作ろう」と思っても作れない。

 あらゆる集団はその成員の標準的なアチーブメントに及ばない「マイナーメンバー」を含んでいる。幼児や老人や病人や障害者は集団内では支援を与えることより、支援を受けることの方が多い。けれども、これらの「マイナーメンバー」を支援するときに、「自分は損をしている」というふうに考える人間には共同体に参加する資格がない。あらゆる人間はかつて幼児であり、いずれ老人になり、高い確率で病人となり、心身に傷を負う。だから、集団のすべての構成員は時間差をともなった「私の変容態」である。それゆえに集団において他者を支援するということは、「そうであった私、そうなるはずの私、そうであったかもしれない私」を支援することに他ならない。(中略)

 集団成員のうちの相対的に有力なものに優先的に資源が配分されるような「弱肉強食」共同体は長くは続かない(いずれお互いの喉笛を掻き切りあうようになる)。集団成員のうちのヴォリュームゾーンである「標準的な能力をもつ成員」の利便を最優先に配慮する「平凡」共同体も、やはり長くは続かない(全員が均質化・規格化して多様性を失ったシステムは環境変化に適応できない)。

 もっとも耐性の強い共同体とは、「成員中のもっとも弱いもの」を育て、癒し、支援することを目的とする共同体である。そういう共同体がいちばんタフで、いちばんパフォーマンスが高い。

(『内田樹の研究室』2010年11月22日)

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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