連載「つたえること・つたわるもの」(52)
新卒一括採用――終身雇用制、日本独自の「苗代」という方法。
連載 2018-11-13
なぜ、こんな話をするかというと、当時の『主婦の友』編集部では、新前記者(同期入社は男性2名、女性3名)について、最初は「一人前(※その語源は、一定の労働標準量が消化できると周囲から認められること)」であることを期待されていなかった。これは編集職だけでなく営業職の新人もまた「半人前(見習い社員)」であるという大前提があり、新入社員はそのことを誰ひとり疑っていなかった。
そして、いわばゆるやかな徒弟制度のような教育システムの中で、「半人前」の新卒社員は「一人前」に成長し、やがて「十人前」の仕事を任されるようになった。さらに、その「十人前」の仕事を任されたひとり一人(元新入社員)はまた、新しい「半人前」を「一人前」に育てる使命を帯びることになる。
しかし、雑誌が順調な利益を上げている間はよかったが、だんだん発行部数が落ち(50万部→10万部)、返品率が上がって(5%→40%)くると、この教育システムの維持が困難になってきた。取材と原稿作成をフリーライターに任せ、社員(記者)は原稿を書かずに、原稿をもらって手配する「編集者」に変身する。
かつて50名近くいた編集部員も、15名前後にスリム化された。1980年代以降に創刊された雑誌も、編集部員は5名前後で編成された。即戦力として中途入社の編集者も多く採用された。「半人前」の新前記者を5名採用するよりも、他社で実績のある中途入社1名のほうがコストパフォーマンスのほうがいいと。
ここでいちばん問題なのは、社員編集者は自分では取材せず、原稿を書かないので、肝心の「編集ノウハウ」がフリーライターにはどんどん蓄積されるが、社員編集者にはまったく蓄積されない。早い話が、読者から記事の内容について質問されても、社員編集者は答えられない。これはよその雑誌のことだが、フリーライターへの原稿料を節約するために、社長が「君たちは編集職で採用したのだから」と社員編集者に取材と原稿制作を命じたところ、その雑誌が全く売れなくなったという怖い話もある。おそらく、その出版社には「半人前」を「一人前」に育てる力量をもった編集者がすでにいなくなっていたのだろう。
新卒一括採用――終身雇用制は、このような教育システムの継承によって支えられていたように思う。
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