連載「つたえること・つたわるもの」(40)
耳で聞いた「話しことば」を、目で読む「話しことば」にする。
連載 2018-05-08
もうひとつ、「だ・である調(常体)」で行う演説調の講演は、どうしても聴衆に威圧感を与えやすいので、一般的な講演では「です・ます調(敬体)」、つまり語りかけ口調が多いのだが、往々にして「丁寧すぎる」話し方になりやすい。最初に「と言われております」「と申し上げましたけれども」と丁寧語を使ってしまうと、あとは最後まで「と言われています」「と述べましたけれども」などの平易な表現は使いづらくなる。
たとえば私が講演するときには、あらかじめ「だ・である調(常体)」の講演メモを作っておき、実際の講演ではメモを横目で追いながら、次々に「です・ます調(敬体)」に変換しつつ話すのだが、熱心に耳を傾ける目の前の聴衆が気になって、ややもすると尊敬語、丁重語、丁寧語の敬語オンパレードになりやすい。
かつて、自分の講演テープ(録音)を聞いて、「えーと……、そうですね~」「たとえば……、何といいますか~」など、あまり意味のない言葉が多く、われながら何と冗長な話し方だろうと思ったことがある。
しかし、「伝わる」話し方に関する研究を進めるうちに、話し手(演者)が声で伝える「話しことば」が、聞き手(聴衆)の耳で聞いた「話しことば」にしっかり届く、つまり文字通り双方向に「伝わる」ことばとなるためには、意味のない、冗長とも聞こえる「えーと……、」「たとえば……、」などが、話し手と聞き手との心理的空間に絶妙の間(……、)を作り出すことがわかった。話し手が思わず言いよどんだり、言い直したり、言い換えたりするたびに、聞き手は話し手のことを心配したり、次のことばを期待しながら、会場(聴衆)と演壇(演者)の心を一つに形づくる。英語の「インタラクティブ(inter-active)」を日本語で「双方向性の、相互作用の」と訳すが、講演の中でも「相互に作用しあう」ための「間(……、)」が必要なのだ。
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