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ゴムの先端研究<第6回>

金沢大学理工研究域機械工学系トライボロジー研究室講師・博士(工学)岩井智昭氏

その他 2019-12-10

 

摩擦や摩耗など接触面の現象を研究

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第6回は、金沢大学理工研究域機械工学系トライボロジー研究室講師で博士(工学)の岩井智昭氏。岩井氏が進めているトライボロジーの研究について話を聞いた。

 ■接触面を観察し摩擦や摩耗を研究
 トライボロジーといって、摩擦や摩耗、潤滑など、接触する2つの面で起こる現象を研究している。プラスチック、ゴム、ゲルが対象だ。

 ゴムで言えば、その接触面の摩擦や摩耗がどのように変化するのか、摩擦や摩耗と接触面とがどう関連するのかを接触面を観察することで分析している。

 また、充填剤がゴムの摩擦特性にどのような影響を及ぼすのかも、大きなテーマの一つとして取り組んでいる。例えばカーボンブラック、シリカ、カーボンナノチューブでは、摩擦と摩耗がどう異なるのか。カーボンナノチューブに関しては取り組み始めたばかりで明確には言えないが、カーボンブラックと異なる摩耗形態、摩耗の仕方だ。

 ■研究のきっかけ
 学部、大学院時代に行っていた研究はトライボロジーではない。光を用いた計測を行う研究室に属していたため、光によって様々なものを見ることに興味があり、これが根幹となっている。

 一方で、ゴムは接触面の形状が時々刻々と大きく変化していくため、その途中がどうなっているのかを知ることに興味があった。

 光を用いた計測の研究を行っていたこと、ゴム表面の変化に興味があったこと、この2つによりゴムの接触面を光で観察して、摩擦、摩耗の過程を明らかにしようと考えた。
 

タイヤはトライボロジーを活かせる大きな用途

 ■タイヤは接触面の観察が活かされる
 ゴムの最大用途はタイヤだ。研究室の前任者である内山吉隆先生がタイヤを中心に研究していたこともあり、研究室としてはタイヤがメインとなっている。タイヤは、接触面を観察するという研究が活かされる製品でもある。

 一般的にタイヤ用ゴムは、摩耗していくと接触する面積がどんどん下がっていく。摩耗形態にもよるが、パターン摩耗というゴム表面の摩擦方向(垂直方向)にのこぎりの刃で逆撫でたような摩耗を起こすと、接触面積が減り、グリップが減少する。摩擦係数として良くない状況だ。ただ、逆の観点で言えば、摩耗していく過程が分かれば、摩耗させないということも考えていけるようになる。

 また、金属のような固い材料と異なり、ゴムは相手面と接触している面積が広いほど摩擦係数が高く、グリップ力が向上する。グリップ力を上げるためには、いかに均等に広く接触させるかが重要になる。凍った路面、濡れた路面ではグリップ力の高いタイヤが、より安全性が高い。

 ■PDMSを用いた研究も
 光を用いた観察となるため、接触面となる2つの面のどちらかは透明体でなければならない。例えばタイヤの接触面を仮定すると、アスファルトかタイヤのどちらかが透明体である必要がある。通常はゴムコンパウンドを用いて、それをガラス面に接触させ観察しているが、最近ではPDMSという透明な紫外線硬化型の液状シリコーンゴムを用いた研究がトライボロジー学会ではよく進められている。タイヤのコンパウンドと同じというわけにはいかないが、ゴムほど扱いに難しさはなく、ゴム弾性を示す。接触面を観察する上で非常に有用な場合があるため、1つのモデルとして、それを用いた研究も行おうと考えている。

 ■ゲルの研究
 研究室で扱う材料はプラスチック、ゴム、ゲルだ。その中で、ゴムにはタイヤというトライボロジーの活きる大きな用途があるが、ゲルには何があるのか。興味があるのは、最近注目されてきている人工関節用の軟骨材だ。

 用いるのは、ハイドロゲルといって水分を8割ほど含んだ材料。摩擦の仕方はゴムとまるで違う。水分を多く含んでいるため、何が乾燥状態の摩擦で、何が湿潤状態の摩擦かも難しい材料だ。

 ■描く未来
 ゴムで言えば、自動車が地面の上を走っている限り、タイヤは必要になる。そのため、そのタイヤがより燃費が良く、より摩耗が少なく、グリップの高いタイヤであれば、環境にとっても非常に良いことだ。そうしたタイヤを実現するには何が必要か。私は接触面を見るというアプローチで、その実現に貢献できると考えている。

 一方のゲルでは、それを用いた人工関節はまだ実現されていない。ゲルを用いた人工関節が実現されれば面白いと思うし、高齢化社会の中、一人ひとりの人生や生活の質の向上に少しでも貢献できればという目標をもって研究を進めている。

 トライボロジーの研究に完了はないと思っている。企業であれば、例えばこれだけの摩擦係数を達成すると完了といった、数値目標があるだろうが、我々の研究では何かが分かると、それに付随して分からないことが出てくる。その追求の繰り返しだ。

 百聞は一見に如かずと言われるが、どんな現象も見ることができれば分かる。そのためにも、これからも接触面を見ていきたいと思う。

 岩井氏が主査を務める、日本ゴム協会トライボロジー分科会のシンポジウムが1月29日、東部ビル5階会議室(東京都港区)で開催される。詳しい問い合わせは日本ゴム協会(電話03・3401・2957)まで。

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