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ゴムの先端研究<第5回>

東京農工大学工学部有機材料化学科(工学府産業技術専攻)教授 博士(工学)斎藤 拓氏

その他 2019-10-29

ブレンドによるゴム物性の制御等を研究

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第5回は、東京農工大学工学部有機材料化学科(工学府産業技術専攻)教授で博士(工学)の斎藤拓氏。斎藤氏が進めているポリマーブレンドによるゴム物性の制御等について話を聞いた。

 ■ブレンドすることで伸長結晶化をコントロール
 ゴムは伸長結晶化という、面白い性質を有している。柔らかいゴムを伸ばしていくと、あるところで急に硬くなり、強度が増す。応力-ひずみ曲線で描くと、応力が急激に上昇するところがあり、そこで起きているのが伸長結晶化だ。これをコントロールして、力学的な性質を変えることを目的に、研究を進めている。

 伸長結晶化をコントロールして、強度を高めるために行っているのが、ゴムと他素材とのブレンドだ。例えば直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)やクレイ、最近ではカーボンナノチューブをブレンドしている。

 天然ゴム単体を例に挙げると、大体400%ほど伸ばさないと伸長結晶化は起こらない。しかし、LLDPEやクレイ、カーボンナノチューブを上手くブレンドすると、伸長結晶化を促進したり、破断強度を大きく高めることが可能だ。

 単純に強度を高めるだけならば、ブレンドする樹脂やクレイの量を増やせばいい。ただ、それを行うと変形回復性が悪化したり、破断伸びが低下したりと、ゴムの良さが失われる。少量をブレンドしてコントロールすることが、ゴムの物性にとって重要だ。初期の弾性率を上げることなく、低ひずみのところではゴムの性質を持たせ、100-200%伸ばした時に強くなる。そういった材料を目指している。

 ■LLDPEを用いたコントロール
 LLDPEを例にとると、本来ゴムと樹脂はそれほど相性が良いわけではない。そのため普通にブレンドして、それを伸ばすとすぐに破断してしまう。これはゴムと樹脂の界面の接着が弱く、剥離して空孔が形成されてしまうためだ。紙に穴があいていると、そこから切れていくのと同じで、剥離した界面は材料を弱くさせる。

 また、LLDPEは架橋剤に対して非常に弱い。そのため、ゴムとLLDPEを十分に相分離させた上で、界面にだけ反応するように架橋剤を選択的にゴム相に入れて架橋することにより、ゴムとLLDPEを界面で反応させる。こうすると、本来相性の良くないゴムとLLDPEを上手くブレンドすることができ、その界面は強固になる。ブレンドしたものを伸ばしても界面で剥離することはなく、低ひずみのところではゴムの良さを持ち、高ひずみのところでは強度を増した材料になる。

 大学の研究は、新しいことにチャレンジしていくのが基本だと考えている。

 LLDPEの性質を知っている人からすると、架橋剤を入れるというのはあり得ないことだろう。しかし、界面にだけ反応させたら接着して強固になるという、面白い性質を持った材料ができる。こうしたことは、新しいことにチャレンジすることで生まれると思う。

ゴムの性質は非常に不思議で面白い

 ■ゴムは面白い素材
 ブレンドについては、大学院の頃から行っている。ただ、当時は樹脂が主体だった。ゴムの研究に本格的にトライし始めたのが、10年ほど前だ。

 ゴムのブレンドでは力学的な性質が混ぜる温度、タイミングなど、それを少し変えただけで大きく変わってくる。樹脂のブレンドでは、混ぜ方を変えても力学的性質が大きく変わることがないため、ゴムのこうした性質は非常に不思議なことだ。ゴムブレンドの伸長結晶化は予想することが難しく、予想と全く違う性質のものができたり、考えられないほど良い性質のものができたりと、素材としての伸びしろが非常に大きい。そこがゴムの面白さだと思う。

 ゴムの種類やブレンドするものの種類を変えると、性質の全く異なるものができる。多くの人が、違うアプローチで取り組めば、出てくる答えが様々になる。そういう部分においてゴムは非常に面白く、ワクワク感がある。

 ■軽く強い発泡体へ
 発泡にも取り組んでいる。ゴムの発泡は非常に難しいが、発泡させると未発泡体に比べて応力が高くなることもある。明確な理由は定かではないが、ここにも伸長結晶化が関係していると考えている。

 一般的に発泡体は、軽量化につながるものの、強度は弱いとされる。しかし、伸長結晶化を発泡によりコントロールすることで、孔のあいた発泡体にもかかわらず強度の強いものができると考えられる。

 まずは、メカニズムの解明が必要になる。実際に何が起きているのか、そこの解明が重要だ。ただ、ゴムは架橋点など解明しなければならないものがたくさんあり、なかなか難しい。架橋の部分は伸長結晶化にも関連してくる。架橋点を解明することは将来的に重要になるだろう。

 ■面白いかどうか
 製品化のために研究をしているわけではない。新しい材料を作り、それにより発現される物性に面白さを感じることができる研究であれば、未来につながると考えている。

 ■企業に向けたエラストマー討論会
 私が実行委員長を務める、日本ゴム協会のエラストマー討論会が12月9-10日に開催される。今回は、なるべく企業の人に参加してもらいたいと考え、企業の人が一番欲しい情報であるゴムのトラブルを、事例をもとに話してもらったり、企業の人の役に立つような講演、テーマをあえて設定している。

 なるべく敷居を低くして、企業の人が参加しやすく、共感できるようなコンセプトでプログラムを作っている。中小企業の人にも役立つ内容となっている。せっかくの機会なので、企業の人にはぜひとも多く参加して欲しい。

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