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連載「つたえること・つたわるもの」⑲

森友・加計問題は「斟酌」、米国のご意向「忖度」問題の奈落。

連載 2017-06-28

出版ジャーナリスト 原山建郎

 今年度流行語大賞の候補は、「総理のご意向」「忖度」が第三位以下を引き離し、ほぼ当確という噂だ。

 今年2月に勃発した森友学園騒動は、安倍首相夫人・昭恵氏の100万円寄付疑惑、財務省近畿財務局による「神風」のような「忖度」の有無から始まった。さらに、5月には安倍首相の「腹心の友」が理事長を務める加計学園の獣医学部新設問題で、文科省が「総理のご意向」を「忖度」させられた(?)内部文書の存在を、前川喜平氏(前文部事務次官)が暴露したことから、さきの国会は「忖度」論議に終始した。

 本コラムの連載名になぞらえて言えば、安倍首相と昭恵夫人には「伝えた」意識がないのに、行政当局が勝手に「伝えられた」と思い込んだ、という筋書きで幕を引く算段らしいが、どっこい、「衣の下に鎧がチラリ」である。明言して「伝えること」よりも、言外に「伝わるもの」の方が格段にパワーは上である。

 3月25日の記者会見で、大阪府の松井一郎知事は財務官僚の「忖度」を認めるべきだと発言している。

「この問題の本質をきちっと説明できない、わからなくしているのは、僕は皮肉にも安倍総理だと思う。忖度はないと強弁しすぎているんです。なぜ籠池さんが言う神風が吹いてきたという、スムーズに手続きが進んだのかという部分。これはまさに忖度だったというのを認めるのが一番だと思います。」

 しかし、安倍首相が「(財務省近畿財務局から)忖度はない(と聞いている)と強弁しすぎている」、「これはまさに忖度だった(と財務省近畿財務局が)と認めるべきだ」とする松井知事の主張は、「忖度」という言葉を正しく用いていない。ここは「忖度」でなく、より正確には「斟酌」を用いるべきであろう。

 『広辞苑(第三版)』(新村出編、岩波書店、1989年)で、「忖度」と「斟酌」を引いてみる。

★そんたく【忖度】(忖も度もはかる意)他人の心中をおしはかること。推察。
★しんしゃく【斟酌】(水または飲料をくみわける意から)①あれこれ照らし合わせて取捨すること。参酌。②その時の事情や相手の心情などを充分に考慮して、程よくとりはからうこと。

 なるほど、「忖度」はあくまでも相手の気持ち(「総理のご意向」)を「推し量る」範囲内だが、「斟酌」ではさらに一歩踏み込んで、「その時の事情や相手の心情を考慮して・程よくとりはからう」ことになる。

 また、『類語大辞典』(柴田武・山田進編、講談社、2002年)で引くと、「忖度」は〈推す〉の項目で、「推量(推し量る)」「推察」「予察」「推測」「憶測(揣摩臆測)」などの類語がある。「斟酌」は〈考える〉の項目で、「酌量(情状酌量)」「慮る」「汲み入れる」「配慮」「考慮」「勘定に入れる」などの類語がある。つまり、「総理のご意向」を「予察」して「配慮」した結果(成果)が、今回の騒動の火種となっている。

 ちなみに、渦中の籠池康博氏が3月の国会証人喚問後、外国人特派員協会で行った会見では、籠池氏の「忖度」発言を、同時通訳が「Sontaku is something like reading between the lines(行間を読む)」と訳したという。英語辞典で「忖度」を引くとguess(推察する)が出てくるのだが、この場面では、「斟酌」の英語表現であるconsider(考慮に入れる)、make allowance(手心を加える)のニュアンスが近い。

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