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白耳義通信 第82回

「イタドリと聖セバスティアン」

連載 2023-07-18

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 今から10年以上前からヨーロッパで問題になっているのが「イタドリ」。オランダ語では duizendknoop と言い、直訳すると「千の節」という意味になる。竹のような構造持つことから、このように呼ばれるようになったのだろう。イタドリの語源は、若葉を揉んで傷口につけると血がが止まって痛みが和らぐことから、「痛み取り」が転じて「イタドリ」と呼ばれるようになったと、この原稿を書くために調べていて初めて知った。

 イギリスでは、イタドリが庭に侵入して不動産価値が下がり、地元自治体を相手取った訴訟で勝つなど、ヨーロッパでは大変厄介な外来種として知られている。ベルギーでも道端や土手に生息しているのを見かけるが、このイタドリ対策として実験プロジェクトに担ぎ出されたのが羊。

 高速道路を車で走っていると、道路脇ののり面に羊が放されているのをよく見かけるが、このイタドリ対策に選ばれたのはただの羊ではなく、木の葉、小枝、低木、さらには樹皮まで食べるという、バイキング羊という種類だそうだ。その名が表す通り、バイキングによってヨーロッパに持ち込まれた羊らしい。

 あらゆる雑草を食べてくれ、放牧しながら移動するので、地面を掘り起こしてくれるバイキング羊がイタドリ対策の救世主になれるか注目である。このイタドリ、元々は観賞用としてあのシーボルトが持ち帰ったようだが、シーボルトもまさか百数十年後に人々から嫌われる植物になるとは夢にも思わなかっただろう。

 さて、今月はもう一つ話題を。「聖セバスティアンの殉教」と言えば、篠山紀信氏が撮った三島由紀夫の写真が有名ですが、三島氏が魅了されたのはイタリアの画家、グイド・レーニの絵。グイド・レーニが生きた時代、フランドルで活躍したのがルーベンス Rubens。

 アントワープにあるルーベンスの家 Rubenshuis で展示されていた「聖セバスティアンの殉教」は、長らく別の画家のものと考えられていましたが、元館長のベン・ヴァン・ブネーデン氏 Ben van Beneden の研究により、ルーベンスのものと特定されました。そして先日、ロンドンのサザビーズで競売に掛けられ約570万ユーロ(日本円にして7億7千万円)で落札。

現在ルーベンスの家は改装の為、閉館されているので、再び貸し出されるのかどうかは不明ですが、この夏ベルギーを訪れられる方でアントワープを訪れられる方は、頭の片隅にいれておいてください。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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