白耳義通信 第81回
「魔女狩り」
連載 2023-06-19
ここ暫く真夏日が続いているベルギーだが、そんな晴天の土曜日のこと。首都ブリュッセルにあるサンカントネール公園(Parc du Cinquantenaire / Jubelpark)で、最近何かと話題の「全裸ポーズ」に因んだわけではなかろうが、こちらは正真正銘の「裸」で自転車に乗った集会が行われた。オランダに比べ、自転車専用レーンが少ないベルギー。サイクリストの安全を守る為の行動のようだが、100人にも及ぶ裸の集団は異彩を放ち、「子供に見せられない」など否定的な意見はあったものの、注目を集めたのは事実である。カラッと晴れた日に、街中を走るのは気持ち良さそうであるが、わたしにそんな勇気はない。
さて「魔女狩り」といえば、中世ヨーロッパで行われた迫害というのはご存知の通りだが、迫害から約500年経った今、犠牲者を追悼する記念碑が建てられることになった。これはゲントで実際に処刑された58人を追悼するもので、同市のプリンスンホフ Prinsenhof(カール5世が生まれた宮殿。現在は跡形もない)にある「暗黒の門」Donkere poort に設置されるようだ。
1500年以前は、黒魔術が問題であり被告は主に男性。その後、魔女妄想が広がり、焦点はだんだんと女性に移っていったらしい。処刑された犠牲者の中の一人、アネキン・ヴァン・ラール Annekin Van Laere の物語はこうだ。彼は占い師として生計を立てていたが為、嫌疑をかけられ1527年「悪魔との契約」の罪で告発されることになる。一旦釈放されるものの、市を離れることは許されず、見せしめの為、頬に烙印を押される。その後、市議会に許しを請うも7年後再び逮捕され、聖ヴェールル広場(Sint-Veerleplein)で斬首刑に処せられる。記念銘板には QR コードが付けられ、訪問者はそれをスキャンして58人の犠牲者の詳細を知ることができるようだ。
しかし、なぜ今になって記念碑が建設されることになったのか定かではない。現代において実際に「魔女狩り」は行われないが、社会的な現象や行動に対して使用される。特定の個人やグループを根拠のない噂や偏見に基づいて攻撃し、迫害する行動や風潮を指す言葉となっている。主にオンライン上で広まるソーシャルメディアやインターネットの匿名性を利用した悪意のある攻撃や嫌がらせに対するアンチテーゼとしての役割を担うのだろうか。
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