PAGE TOP

連載コラム「白耳義通信 」71

「ベルギーにおけるサッカーの起源」

連載 2022-08-18

 日本では、未だに新型コロナ新規感染者数がトップニュースで報道されているが、ベルギーでは、一日の感染者数の報道は、もう随分前から伝えられなくなっている。両国の報道のあり方の違いをみていると、日本は数字に一喜一憂している感もするが、事実を伝えるという姿勢が日本の報道の在り方なのだろう。

 さて、今月はベルギーにおいて重要な博物館の仲間入りをしそうな場所を紹介したい。ベルギーには現在、王立の美術館、美術歴史博物館(楽器博物館含む)、自然科学博物館をはじめ、アール・ヌーヴォーのオルタ邸や、漫画センター、車が展示してあるオート・ワールド、鉄道のトレイン・ワールドなど、大小様々な博物館があるが、年間何百万人も訪れるような大規模な博物館や、「ひまわり」だけで人を集められるオランダのゴッホ美術館のような人気博物館があるわけではない。博物館よりもゲントにある聖バーフ大聖堂の「神秘の子羊」など、教会にある絵画などに見どころが多い国だと思う。

 前述のゲントの隣に位置するメッレ Melle という街に、開校185年を迎えた、寄宿舎を備える私立の初等・中等学校 College Melle (College Paters Jozefieten) がある。校内には建物が老朽化し、展示してある物が埃だらけの博物館があることをベルギーのラジオ局 VRT Radio2 が見つけた。というより、学校関係者には知られていたことだから、多くの人が知るところとなったという方が正しいだろう。

 なぜこの学校に博物館があるのかというと、開校された当時、世界50カ国から子供たちが学びにやってきたのだが、留学生たちは「母国からなにか持ってくるように」と言われた為らしい。その持って来られたものの中には、嘗てのローマ教皇が使ったスリッパや、ネルソン提督のブーツ、はたまたエジプトのミイラまであり、それらをガラスケースに入れて陳列したことが、ことの始まりのようだ。ただ、全ての物の由来が分かっているわけではなく、今後調査が必要とのことだが、数ある化石、骨格、剥製、種、ミイラは、考古学者には宝の山と感じられるのではないだろうか。

 そして、その持って来られたものの中にサッカーがあり、無形遺産としての資料も残っている。その資料に依ると、1863年、あるアイルランド人の生徒が、学校の休暇を終え、腕にボールを抱えて戻ってきた。そのボールこそが、まだベルギーでは知られていなかったサッカーボールで、友達や先生にゲームのルールを教えたことが、ベルギーのサッカーの始まりだろうとされている。

 そこから時は流れ、ベルギーのナショナルチームは国際サッカー連盟 FIFA のランキングで、ここ数年1位を維持(最新ランキングはブラジルに続いて2位)。11月からカタールで開かれるワールドカップで、悲願の優勝となるか。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

関連記事

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物