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連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(31)

合成ゴムのナフサブタジエンリンク価格は、このままでいいのか?

連載 2021-12-06

 JSRの合成ゴム部門が2022年春に石油会社ENEOSに譲渡され、「ENEOSマテリアル」になります。また住友化学は2023年3月のEPDMゴム生産停止を発表しています。私の知る限りでは、合成ゴム生産は、いままで拡張、増設、新設がありましたが、主な国内の合成ゴムの生産停止、撤退、売却はいままでそれほどなかったように思います。

 そんなに日本の合成ゴム事業は赤字続きの事業なのでしょうか?さっさと止めた方がいい事業なのでしょうか?現在日本の合成ゴム事業はどれも利益を上げていると思います。ブタジエンの価格が大幅に下がると、一時的に赤字になりますが、大手石油会社で原油価格が下がると、1年だけ巨額な赤字を出すのと同じです。現在の大手の合成ゴム事業はどこも年間50億円以上の利益を上げています。

 どこに問題があるのでしょうか? その一つは国内の合成ゴム取引価格がナフサブタジエンリンク価格制になっていることではないかと思います。

 ナフサブタジエンリンク価格制とは、ナフサや、ブタジエン、スチレンモノマー、アクリロニトリルといった合成ゴムの基礎原料の価格をベースに組成、使用原料割合に応じてコスト計算をして、基本3ヶ月ごとに合成ゴムの販売価格を上下させるやり方です。一度合意した価格をベースにして、3ヶ月ごとに原料コストが上がった、下がった分だけを販売価格に反映させます。10年ほど前から、この制度が主な合成ゴム(SBR、BR、IR、NBR、EPDM、IIR)の販売では一般的になりました。

 一見、問題ないように見えます。従来は、営業部員がユーザーを訪問して、毎回値上げの理由を説明し、交渉して、数回の訪問、打ち合わせののちに、次の価格が決まるというやり方をしていました。購買する側も、やれ原油が下がった、ブタジエンが下がったから来月からいくら下げろと毎回交渉してきたわけです。お互い交渉に時間を使います。社内稟議の決裁をとる必要があり、業務としては、結構大変な作業を繰り返していました。それが醍醐味だと考える人もいましたが。これがナフサブタジエンリンク価格制になるとこれらの手数が省けます。営業部隊の人員も削減できます。

 しかし初めのうちはこれでいいのですが、このナフサブタジエンリンク価格には、増大する製造ラインのメンテナンス費用、管理費人件費の増加分、環境対策費等が含まれていません。この10年間、当初は予想していなかったコストが発生するようになってきました。またこの価格にはいわゆる市況価格が考慮されていません。海外の市況価格が高い時には、もっと輸出すればさらに利益がでるのにと考えることもあります。株主から、どうしてもっと利益がでる輸出を増やさないのかと圧力がかかります。これらの問題を先送りしているうちに、合成ゴム事業があまり利益の出ない、魅力がない事業になりかけています。

 アジア、中国国内をみると、合成ゴムは、毎月価格が変わる、市況価格で販売されています。余れば安くなり、場合によってはコスト割れ価格で売れています。不足になれば、価格が2倍になることもあります。インド市場はその極端な例になります。米国では、現在は市況価格が反映され、不定期に製造メーカーから一方的に価格変更が通知されます。もちろんそれから交渉があり、それで価格が決まりますが、EPDMが不足している2021年はほぼ毎月価格が上がりました。通常は年1~2回価格が変動します。欧州でも年に数回価格が変動します。基本はナフサ、ブタジエン価格に連動し、それに需給バランス要素、市況要素が加味されます。今年は、合成ゴム価格に天然ガス価格サーチャージという、毎月変動する要素を導入されました。

 今後日本で今のナフサ、ブタジエンリンクのフォーミュラ価格制のままでいいのでしょうか?増大する製造ラインのメンテナンス費用、管理費人件費の増加分、環境対策費等を加味したフォーミュラ制、さらに一部市況価格を反映したフォーミュラ制を検討する時期にきていると思います。

 大手タイヤ会社では、購入する合成ゴムの価格は、基本的にはコスト(ナフサ、ブタジエン)をベースに、さらに年一回は、市況、輸送運賃、メンテナンス費用等を加味して、フォーミュラ自体の見直しをしていると聞いています。いままでの式の最後に+αの項目があり、そのαの数字を毎年交渉で決めるのです。年一回の見直しであれば、市況や、予定外の外的要素もそこに入れることができます。交渉には買い手、売り手にとって手間がかかり、知恵、市況感が必要ですが、今後の合成ゴム安定供給のためには、変革が求められていると思います。

 私は日本の合成ゴム供給がサステナブルなものであるために、いままでのナフサブタジエンリンク制だけではなく、+αをいれた年一回の交渉によるフォーミュラ価格にすると双方にとって良いのではないかと思います。

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