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連載コラム「白耳義通信」53

「Bozar 燃ゆる」

連載 2021-02-17

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 先日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの第1便を載せた航空機が、ベルギーのブリュッセル国際空港(通称ザヴェンテム)から成田空港へ到着したと報道されました。「アメリカの製薬会社なのに何故ベルギーから?」と疑問に思われた方も多いでしょう。実はこのワクチン。首都ブリュッセルから北 30km に位置する Puurs(ピュールス)という街に製造拠点があるからです。

 欧州では製薬会社とのトラブルからワクチンの接種が遅れ、市民からは不満の声が続出しています。ベルギーでも、どの製薬会社のワクチンを誰に接種するのか、またその有効性はどうなのか議論が続けられており、一向に進まないワクチン接種、及び政府の新型コロナウィルス対応政策に対する反対デモも行われています。

 皆が一致団結しなければならないような時、日本では自分が自分がと、今回の場合のように「我先にワクチンを接種して貰いたい」などという声は余り聞きませんが、時々歪んだ形で個人主義が現れることもあります。デモを批判することは簡単ですが、デモに乗じて騒ぎたいだけの輩が事態を大きくすることが一番厄介です。

 さて、先月のコラムを書いた翌日、音楽関係者には衝撃的なニュースが伝わってきました。「アール・ヌーヴォーの父」と呼ばれるヴィクトール・オルタ(Victor Horta)が設計した「ブリュッセルの Bozar(ボザール)で火事が発生!」というニュースです。

 ホール自体は幸いにも天井部分が燃えただけで、大事に至らなかったようですが、問題はホール内に設置してあるパイプオルガンです。消火剤だけならまだしも、運の悪いことに消火後、たくさんの雨が降ってしまった為、パイプオルガンが甚大な被害を受けてしまいました。4000本ものパイプを持つ巨大なオルガンが元の美しい響きを取り戻すには、後3、4年掛かるとみられています。2017年に改修を終えたばかりのこのパイプオルガン。まだまだ試練が続きます。

 世界三大音楽コンクールであるエリザベート王妃国際音楽コンクールの本選会場にもなっている Bozar。昨年はコロナ禍の為、コンクールが見送られましたが、今年のピアノ部門は規模を縮小して5月に行われる予定です。果たして無事開催できるのか、ホールの響きに影響はないのか気になるところですが、この場所から世界へ大きく羽ばたいていって欲しいものです。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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