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連載「つたえること・つたわるもの」100

新型コロナ危機で見え隠れする〈ショック・ドクトリン〉

連載 2020-11-10

 2004年のスマトラ沖地震の津波で被災したスリランカの漁村でも、政府主導の〈ショック・ドクトリン〉が推進された。しかも、あろうことか、津波被災者のために国の内外から寄せられた義援金が、当の被災者のために使われるのではなく、津波襲来以前からあった「アルガムベイ資源開発計画(アルガムベイの町を全面的に取り壊し、高級リゾートホテル等を建設する再開発プロジェクト)」に投じられるというのである。

 二〇〇四年一一月二六日に起きたスマトラ沖地震で、この海岸線は大津波に襲われ、今私のいる浜を含む何十カ所かで必死の救援活動が行われた。近年最大規模の自然災害となったこの津波によって、周辺地域一帯ではおよそ二五万人の命が奪われ、二五〇万人が家を失った。半年後、私は復興作業の状況をイラクと比べるため、被害の大きかった国のひとつスリランカを訪れたのだった。(中略)旅はスリランカ東部にあるさびれたリゾート地の漁村アルガムベイから始まった。ここはスリランカ政府の復興チームによって「改良再建」計画のモデルケースとされた村だ。

 そのアルガムベイの漁師ロジャーの口から出てきたのは、政府見解とはまったく違う話だった。政府の計画は「海辺から漁師を追い払う企て」にほかならない、と彼は言う。漁師を根こそぎ立ち退かせる案はずっと前からあったが、政府は今回の津波を――これまでの多くの惨事便乗ケースと同様に――口実にして、住民にはまったく不評だった計画を推し進めているのだ、と。
(『ショック・ドクトリン』下巻「第19章 一掃された海辺」 561~562ページ)

 同書日本版が上梓された(原著は2007年)2011年9月8日は、3・11(東日本大震災+福島第一原発事故)の半年後である。「訳者あとがき」のなかで、訳者の幾島幸子さんは日本への警鐘を鳴らしている。

 翻って今年の三月一一日、東日本大震災とそれに伴う津波および福島第一原発事故という未曽有の「ディザスター(※災害)」に見舞われた日本にとっても、本書の内容は重くのしかかる。(中略)

 同じ自然災害でも、アジアの津波やハリケーン・カトリーナの際のようなあからさまな惨事便乗経済の発動は今のところ伝えられていないものの、復興の名を借りて住民無視・財界優先の政策を打ち出す自治体も出てきており、予断を許さない状況である。ショック・ドクトリンの導入が行われないよう、私たち市民は心して目を光らせていく必要があろう。
(『ショック・ドクトリン』下巻「訳者あとがき」 561~562ページ)

 この2月に始まった新型コロナ危機が収束の気配を見せないなか、惨事便乗型政策遂行を意味する〈ショック・ドクトリン〉の、日本における兆候については、残念ながらゼロとは言い切れない。

 たとえば教育界では、新型コロナ危機の影響で一斉休校が長引き、入学式も対面授業ままならない状態のなか、突然、「この際、9月入学、9月新学期にすべきだ」という声が上がった。

 「学校の入学、始業の時期を9月にずらすのも大きな方法。9月入学にすれば学力差がなくなる。今は学校をやっているところと、ずっと休校しているところでかなり学力差、地域格差が出ている」(宮城県・村井嘉浩知事)/「世界の先進諸国はほぼ9月(8月)入学。今後、10年、20年先の日本の将来を考えた時、若者が世界で活躍しやすいように、日本も世界標準の9月入学にすべきだ。現在のコロナの休学に伴う学力格差を防ぐことにもなる。」(大阪府・吉村洋文知事)/「9月スタートもありではないかと思います。大きな流れ、新しい流れはこういうときに、出てくるのではないかなと思っています」「国際標準にあわせていくのも1つかなと思う」(東京都・小池百合子知事)

 この知事たちの発言は、「十分な議論を尽くして知恵を出し合う」重要なプロセスを省略して、新型コロナウイルスの感染拡大という「惨事」に便乗した、無責任な思いつき、ご都合主義的な考え方である。

 また、たとえば実業界では、緊急事態宣言が解除された翌日(5月26日)、日立製作所が「今後は幅広い職務で在宅勤務を標準とした働き方を推進する」として、「中長期的に在宅勤務など継続するための主な施策」を打ち出した。新聞で紹介された施策をチェックしてみると、新型コロナ危機の収束後も、ITリモートワーク環境の整備を行い、一定時間の出社義務や利用回数の制限なしに、自宅やサテライトオフィスでの勤務を引き続き可能とする在宅勤務制度を「ニューノーマル(新常態)」とする方針のようだ。これも見方によっては、大手企業による〈ショック・ドクトリン〉(惨事便乗型政策変更)と考えることができるだろう。

 もとより、私は「9月入学(新学期)」「在宅勤務制度」に最初から反対しているわけではない。「惨事(新型コロナ危機拡大)」の状況下ですべてを決めるのではなく、惨事(災害)の収束後、「平時(十分な議論を尽くして知恵を出し合う環境)」の頭で、じっくり時間をかけて考える必要があるのではないかと思う。

 次回は、やはりナオミ・クラインが警告している「シリコンバレーのハイテク企業が、新型コロナ危機に乗じて、リモート学習やオンライン診療などの非接触型テクノロジーを拡充して、人間をマシーン(AI)に置き換える構想」のひとつ、「スクリーン・ニューディール」について考えてみたい。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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