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連載「つたえること・つたわるもの」100

新型コロナ危機で見え隠れする〈ショック・ドクトリン〉

連載 2020-11-10

出版ジャーナリスト 原山建郎

 11月3日に投票が行われたアメリカ大統領選挙は、オバマ政権当時の副大統領だったジョー・バイデン候補が最後の主戦場(ペンシルベニア州)を制してようやく獲得選挙人の過半数(270人)を超え、現職のドナルド・トランプ大統領に勝利することが確実になった。

 しかし、トランプ大統領は複数の州で開票を巡る訴えを起こすとして、自らの敗北を認めようとしない。今回は新型コロナ危機の影響で期日前投票や郵便投票が増えて、バイデン候補に有利とみられる郵便投票の開票に危機感を持ったトランプは、「選挙の不正」と「開票の停止」を求めて、あくまでも徹底抗戦の構えを見せている。また、「Qアノン(民主党の政治家と一部の著名人は悪魔崇拝と児童虐待に関与しており、ドナルド・トランプはこうした敵と戦っていると主張する、カルトじみた陰謀論)」を信奉するトランプ支持者たちが開票所に押しかけ、外から威嚇する様子が大手メディアで報道されたことも記憶に新しい。

 日本でトランプ(ゲーム)といえばカード式室内ゲーム(西洋カルタ)を指すが、英語のtrumpは「切り札・奥の手・好漢」をいう。4年前、「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)を掲げて登場したトランプは米国第一主義にそぐわないという身勝手な理由で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱を皮切りに、イラン核合意離脱、(地球温暖化対策の)パリ協定離脱、INF(中距離核ミサイル全廃条約)破棄、WHO(世界保健機関)脱退、ユネスコ(国連教育科学文化機関)離脱など、国際条約の破棄や国際機関からの離脱という「禁じ手」(トランプ)を連発してきた。

 今回の大統領選挙では「アメリカ・ファースト」政策をさらに推進すべく、「Make America Great Again(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」を掲げて、二期目となる大統領続投を目指していた。先月末から、ヨーロッパでは新型コロナウイルスの第二波感染拡大が伝えられているが、現在のアメリカの累計感染者数約1000万人、死者数約24万人、一日当たりの新規感染者数が10万人を超える世界最大の感染国である。ところが、トランプはそのドサクサに紛れて大統領選挙結果の無効という「禁じ手」を打とうとしている。「ドサクサに紛れて」の同義語には、暗闇に乗じて・混乱を利用して・隙を衝いてなどがあるが、史上空前の新型コロナ危機(パンデミック)という大パニックに乗じて、自らは「アメリカ・ファースト」の仮面(マスク)を着けた「トランプ・ファースト」を強行していると言わざるを得ない。

 私はいま、市川市中央図書館で借りた『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く 上・下』(ナオミ・クライン著、幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店、2011年)を読んでいる。

 〈ショック・ドクトリン〉は、津波や大地震、山火事などの自然災害や戦争やテロによる暴力行為によって住民がショックを受けているときに、生命の危機におののくパニックを利用して、一攫千金をたくらむ金儲け集団による災害資本主義、火事場泥棒資本主義をさす概念である。カナダ生まれのジャーナリスト、ナオミ・クラインは、今回の大統領選挙で「赤い州(共和党優勢)」といわれるルイジアナ州で、2005年に起こった理不尽な〈ショック・ドクトリン〉を、同書の冒頭(序章)で次のように紹介している。

 ハリケーン・カトリーナがアメリカ南部を襲った直後の二〇〇五年九月、ルイジアナ州バトンルージュへ赴いた私は、赤十字が用意した巨大な避難施設でジャマール・ペリーと知り合った。(中略)

 その日、避難施設の被災者の間で話題となっていたのは、ニューオーリンズ選出の有名な共和党議員リチャード・ベーカーが(※不動産業者などの)ロビイストたちに向けて語った言葉だった。「これでニューオーリンズの低所得者用公営住宅がきれいさっぱり一掃できた。われわれの力ではとうてい無理だった。これぞ神の御業だ」。(中略)彼らロビイストたちが州議会を通そうとしていたのが、減税、規制緩和、低賃金労働力、そして「より安全でコンパクトな都市」の構想だった。要するに公営住宅の再建計画を潰してマンションを建設しようという案だ。(中略)

 一方、避難所にいたジャマール・ペリーは死者の無念さに思いを馳せるばかりだった。「一掃だとか言っている場合じゃないだろ。凄まじい数の人間が死んだんだよ。そっちのほうが僕にはよっぽど問題だ。こんな死に方をするなんて浮ばれないよ」
(『ショック・ドクトリン』上巻「序章 ブランク・イズ・ビューティフル」 1~3ページ)

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