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連載「つたえること・つたわるもの」(96)

我慢する〈こころ〉、がまんできない〈からだ〉の悲鳴。

連載 2020-08-25

 19年前に書いた拙著『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫、2001年)に、次の一文がある。

 「こころ」と「からだ」には、次のような特徴があります。
 「こころはたとえ嫌なことでもがまんできるが、からだははじめから嘘をつけない」
 つまり、何かからだが傷つけられたようなときに、こころでは痛さをがまんして表情に出さずにいることができても、からだはその瞬間からがまんすることなしに、その痛さやつらさから逃げる動きをしたり、一刻も早くからだを修復へ向かわせようとして行動を開始します。
 この場合の「こころ」を表面の意識(現在意識)、「からだ」を表面化の意識(潜在意識)と置き換えて考えてみることもできそうです。
 したがって、「からだは嘘をつけないので、その人の本音がそのままあらわれる」のだとしたら、私たちの正直な「からだ」が発するメッセージを通してのみ、ふだんは見ることのできない本当の「こころ」の姿が見えてくるのではないでしょうか。

(『からだのメッセージを聴く』12ページ)

 ところで、英語で患者を表すペイシェント(patient)の語源は、ラテン語のpatientem(耐えること)に由来する。つまり、怪我や病気の痛さ苦しさに耐える人をペイシェント(患者)と表現したのであろう。同じように、〈からだ〉の病気をあらわす英語の一つに、ディジーズ(disease)がある。この英語はディス+イーズ(dis-ease)という二つの部分で構成されている。接頭語のdis(ディス=~しない)は否定の意味をあらわし、ディスカウント(dis-count:計上しない=値引きする)、ディスクローズ(dis-close:隠さない=公開する)と同様に、ディス+イーズも「楽でない→からだがつらい→病気になる」を意味している。もう一つの動詞、ease(イーズ=楽にする)の形容詞はeasy(イージー=楽な、くつろいだ)で、くつろいだ日本語表現なら「楽ちん」がよいだろう。したがって、〈からだ〉がイージー(楽ちん)でない、痛い、苦しい状態をディジーズ(病気)というのであれば、接頭語のディスを削除して、もとの設計図通りに〈からだ〉をイージー(楽で気持ちがよい)な状態に戻してやりさえすれば、〈からだ〉の不調(不快状態)は消えて健康な〈からだ〉になる。

 健康な〈からだ〉の状態(ビーイング)をあらわす言葉に、ウエルビーイング(well-being)がある。刻々変化する〈からだ〉を、その日の状態でとらえると、健康診断オールAの若者も二日酔いの翌朝は病気(ディジーズ)であり、たとえガンの患者であっても目覚めたとき朝の気分がよい日は健康(ウエルビーイング)だということになる。ウエルビーイング(快適)なからだは、ほどよくゆるんで「爽快な気分」を生み出し、ディジーズ(不快)の〈からだ〉は、ストレスで緊張して「病的な気分」におおわれている。

 最後に、幼いころから「我慢」をいとわず実直に働き、つましく暮らしてきた高齢者のみなさん、くれぐれも〈からだ〉感覚にがまんは禁物! 私たちの正直な〈からだ〉がときどきに発する、身体知のメッセージに〈こころ〉の耳を傾けながら、暑ければ「暑くてたまらん」、痛ければ「痛い、助けて」と叫ぶこと。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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