連載「つたえること・つたわるもの」(96)
我慢する〈こころ〉、がまんできない〈からだ〉の悲鳴。
連載 2020-08-25
『広辞苑』で「我慢」を引くと、【①自分をえらく思い、他を軽んじること。高慢。②我意を張り、他に従わぬこと。我執。強情。③耐え忍ぶこと。忍耐。】とあり、『角川国語辞典』では、【名(※名詞)①〔仏(※仏教用語)〕自己にとらわれ、心のおごり高ぶる煩悩。他サ変(※他動詞サ行変格活用)②(イ)たえしのぶこと。忍耐。(ロ)こらえ許すこと。(ハ)いじをはって聞き入れないこと。】と書かれている。
二つの辞書の解説から、漢語の「我慢」、ひらがなの「がまん」、2種類があるように思う。
まず、漢語の「我慢」は、『広辞苑』①「高慢」と『角川国語辞典』①「心のおごり」のように、仏教用語の「我慢」である。仏教でいう「我慢」は、私たちの煩悩(身心を乱し悩ませ苦しめる〈こころ〉の作用)の中でも、強い自己意識が起こす七つの慢心(慢・過慢・慢過慢・我慢・増上慢・卑慢・邪慢)の一つで、自分の間違いに気づきながら、どこまでも我を押し通そうとする〈こころ〉をいう。「我」は我執(我が我がと、自分に執着する)、「慢」は自惚れ(自分より劣った相手を見下す)の〈こころ〉の意である。
仏教用語である漢語の「我慢」は、あれこれ迷い悩む〈こころ〉に指令を送る〈あたま〉の働き、つまり「頭脳知(ブレインワーク)」である。仏教の「我慢」は、もともと「我(自分)に慢心を抱く」ことだが、「我に自惚れて、おごり高ぶり、他を軽んじる」意味から転じて、我意を張ること、強情なことを、忍えるという意味で、近世後期あたりから「我慢」が用いられるようになったらしい。
高齢者に熱中症をもたらす、ひらがなの「がまん」は、『広辞苑』③の「忍耐」と『角川国語辞典』②(イ)のたえしのぶ「忍耐」という意味に近いが、いちばんの被害者は「がまん」できない〈からだ〉感覚だ。
たとえば、エアコンの効かない熱帯夜を過ごす高齢者に、〈あたま(脳)〉から「耐えよ」と指令された〈こころ〉の意識はその暑さを「我慢」しようとするが、高温に耐えかねて意識が朦朧とした〈からだ〉の感覚はそれを一瞬たりとも「がまん」できない。私たちの〈からだ〉の皮膚感覚の働き、つまり「身体知(フィジカルインテリジェンス)」は、痛いこと、苦しいこと、つらいことが大の苦手で、つねに不快(痛い・苦しい・つらい)から逃れて、快(心地よい・楽しい・うれしい)をめざして動こうとしている。
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