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連載「つたえること・つたわるもの」(96)

我慢する〈こころ〉、がまんできない〈からだ〉の悲鳴。

連載 2020-08-25

出版ジャーナリスト 原山建郎
 関東地方が梅雨明けした8月1日以降、35度を超える猛暑日が続き、熱中症で救急搬送される高齢者が急増している。総務省消防庁が8月18日に発表した1週間ごとの速報値(8月10日~16日)によると、全国で救急搬送された患者数は1万2804人で、前の週(3日~9日)の6664人からほぼ倍増となった。

 たとえば東京都では、8月16日に、215人が熱中症で搬送され、このうち21人が重症または重篤な状態だった。8月9日~17日の9日間に熱中症で死亡した人は26人で、このうち80歳代が12人、70歳代が9人と全体の8割を占めていた。また、26人のうち25人が屋内で亡くなっており、エアコンを設置していないか、設置していても使用しなかった人が、22人だった。年金暮らしの高齢者には、エアコンの購入費用、今夏の電気代を考えると、窓を開け、扇風機をつけて寝るという選択肢は無理からぬことかもしれない。

 高齢者が熱中症におちいる原因の一つに、たとえば日本医師会・中川俊男会長が記者会見で述べた「緊急事態宣言解除後、初の連休となる。我慢の4連休にしていただきたい。/「県境を越えた移動や不要不急の外出を避けていただきたい。」(7月22日)、「引き続き我慢のお盆休みと申し上げたい。/3密を避け、帰省先の医療提供体制を確認した上で行動してもらいたい」(8月5日)などに代表される、政府や地方自治体、医師会が要請する「我慢」の遵守が挙げられる。昨今、マスク着用、手洗い・うがい励行、アルコール消毒を必ずしも守らない若者も少なくないが、長時間の残業もいとわず戦後日本の経済復興を支えた真面目な高齢者たちは、ひたすら「我慢」の人生を送ってきて、いまもなお新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために孫に会いたい・お盆に墓参りを我慢して、オンライン帰省・オンライン墓参りの要請に従っている。

 その並はずれた「我慢」の気持ちと行動が、高齢者の熱中症を生み出しているのではないだろうか。

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