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連載コラム「白耳義通信」45

「人種差別」

連載 2020-06-17

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 新型コロナウイルス(COVID-19)対策として、6月8日から、外出規制解除計画第3フェーズへ移行し、これまでよりは自由に活動できるようになったベルギーです。依然としてニュースは COVID-19 が中心ですが、アメリカ・ミネアポリスで起きた白人警官による黒人暴行死事件関連のニュースも目立ちます。

 自分自身鈍感なのか、ベルギーに住んでいて差別を受けて嫌な思いをしたというのは余り無いのですが、それでも後から考えれば「もしかしてそうだったのかも?」と思えることもあるにはあります。ただ今回の不幸な事件を人種差別問題から捉えるのか、それとも権力の濫用と捉えるのか、二人の個人的な問題だと捉えるかで(暴行を加えたとされる警官と亡くなった二人はかつて同僚だったとされる)、大きく変わってきます。

 今回の事件を切っ掛けに18歳の男性がネットに投稿した「若い黒人が従うべき暗黙のルール」を読むと、アメリカで生きていくことは如何に大変かを窺い知ることができますが、ここでは「権力の濫用」という面から、実際にベルギーで遭遇したことを元に、考えていきたいと思います。

 毎年9月になると大気汚染緩和を目的に、ベルギーのみならず欧州各地でノーカーデーが行われます。今や初秋の風物詩となった感もあり、普段は車が走る道路を自転車やスケボー、ローラースケートで大腕を振って闊歩する姿が目立ちます。まだノーカーデーが始まって間もない頃だったでしょうか。「ノーカーデー」と謳うくらいですから、道路を自由に歩いて良いものばかりだと思い自由を謳歌していると、警察車両がやってきて、「直ぐ歩道に戻りなさい。ここは車が走るところだ!」と、怒鳴って去るではありませんか。

 仕方なく歩道を歩いていると、件のパトカーは猛スピードで進み、自分の前でスケボーに乗って道路で遊んでいた少年にも注意したかと思いきや、次々と大通りに出ている人達にも同じことを繰り返していました。上からの指示が徹底されていなかったのか、若しくは何か嫌なことがあったのか、折角道路を歩けるのに、自分だけ車に乗って仕事をするのが嫌だったか定かでは有りませんが、「ノーカーデーの意味はどこに?」と思ったものです。

 権力を持つと、途端に人が変わったようになることがありますが、思いやりを失ったり、他人の立場に立って考えることができなくなるのでしょう。これはこの警官や、今回アメリカで問題となった警官だけに関わらず、どの仕事場でも起こり得ることです。

 ミネアポリスで起きた事件を伝えるニュースでは、抗議デモと共に、略奪、暴動の様子も報道されましたが、これはマスコミのミスリードと捉えられても仕方ないでしょう。抗議デモに参加しているのは、人種の違いに関係なく、また警官の中にも参加している人もいます。

 2018年11月フランスから始まった「黄色いベスト運動」でも、似たような報道がされましたが、実際デモに参加している人の多くは暴力に訴えることなく、抗議活動をしています。略奪、暴動をしていたのは、ただ単に便乗して騒ぎたい者だったということが、映像に映し出される服からも分かりました。

 ベルギーでも今回のアメリカの事件を受け、抗議デモが行われました。そんな中、アフリカのコンゴを私領地とし、ゴムや象牙の採取ノルマを果たせない住民へ、罰として手足切断など暴政を行ったレオポルド2世(在位:1865年 – 1909年)の像が、ペンキで汚されたり、布で覆われたりということが起こりました。現在、この国王の像を撤去を求める声が高まりつつあります。

 像を布で覆うというのは、「見たくもない」ということで未だ分かりますが、像を汚したり、破壊して見えなくすることは負の連鎖であり、臭いものに蓋をするではありませんが、却ってこの国王がしたことが闇に葬られるのではないでしょうか。敢えて像を残しておいた方が、教訓にもなると思うのですが、如何でしょうか。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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