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連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」⑳

ゴム製品の値段はいくら?

連載 2020-01-07


加藤事務所代表取締役社長 加藤進一

 ゴム製品、ゴム部品の価格はいくらが適正なのか? またゴム部品の価格はどうやって決定されているのか?これは永遠の命題です。某自動車メーカーの購買部の方からもこのような質問を受けたことがありますが、この答えは難しい。

 ある方から「ゴム部品の価格の決め方は簡単だ。材料費(天然ゴム、合成ゴム、カーボンブラック、オイル、ゴム薬品)のコストを計算して、3倍にすればだいたい当たっている」と言われたことがあります。この話を他社の、ゴム製品を製造している幹部の方に話したら、確かにだいたい当たっているとも言われました。

 ゴム製品、ゴム部品の製造費用は、もちろん材料費もありますが、ゴムをコンパウンド化(練る)工程費用、加硫成型する費用(これも押出、圧延、圧縮成形、加硫缶加硫、射出成形 その他いろいろあります)、検査する費用、成型時のバリ(加硫済みの使えない部分)の廃棄費用(最近このコストが高くなっています)、梱包、輸送費用、さらに管理費(総務管理部門、購買、営業、さらに最近では労働安全衛生環境関係のチェック、書類作成の工数も相当かかるようになりました)、技術開発、技術サービス費用(合成ゴム製造ではこの部分の相当コストがかかります)のコストがあり、さらに設備償却費用がかかります。最近ではどのゴム成形機、練り機を購入しても1台で最低でも1,000万円以上します。精練機械、大型プレスであれば、1台5,000万円はかかります。大型プレスでは毎日仕事があるわけではありませんので、設備償却費用が相当の比率になります。

 また不良率も考えなければなりません。樹脂と違って、ゴムは配合を設計して、コンパウンドして、ある条件で成形しますが、その最適な配合、コンパウンド、成型条件からずれるとすぐ不良品ができてしまいます。

 だからゴムは樹脂と違ってブラックボックス化しているのです。材料費の3倍だなんていい加減だ と言われそうですが、これらのコストを考えると、結構あっているのかもしれません。今ならば、3.5倍か4倍に近いかもしれません。

 タイヤ生産ではこの考え方はちょっと違います。タイヤの材料だけのコストを考えれば、乗用車タイヤ1本の平均的なゴム材料はたとえば10kgだとして、これは8kgのコンパウンド重量とスチールワイヤー重量2kgだとしても、材料コストでは1本¥4,000以下ですね。タイヤの場合は、成型費用、設備償却費用がかなりあります。タイヤの設備はとにかく高い。一般的なゴム部品製造に比べて値段が一桁高い機械ばかりです。また工程が本当に複雑。だからタイヤメーカーはとにかくタイヤ製造設備がフル運転になるように頑張ります。タイヤ製造ラインの稼働率がちょっとでも下がると、利益が相当減ります。これはわかるような気がします。またタイヤの場合は、広告宣伝費と工場から小売店への輸送費、それに技術開発費用が相当かかります。ここが一般的なゴム部品、ゴム製品と違うところです。当社にも以前大手広告業界で働いていた人がいますが、タイヤは性能も大切ですが、安心を売るものなので、イメージが大切だとのことです。自動車用ゴム部品メーカーではテレビCMなんかほとんどありません。

 ということで、材料コストの3倍が製品価格になっているか?ゴム部品メーカーの皆さん、ちょっと自社製品で考えてみてください。

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