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連載「つたえること・つたわるもの」(72)

話し手が感動する話は、聞き手の琴線に触れると、涙があふれる。

連載 2019-08-27

 大学のキャリア教育系の授業では、ワークライフバランス(仕事と家庭の調和)、社内教育プログラム(社内研修制度)など、社会人としての明るい未来について学んでいますが、今回の【生き生きと働く大人】インタビューでは、はからずも何人かの父や母から率直な心情が吐露された。

「お前たちを養う、そのためにだけ働いている。いいか、大学だけはきちんと出ておけ」

「仕事の喜びは、お給料をもらったとき。これでご飯が食べられる、安心感かな!」

 社会人の仕事は自分の能力を伸ばすチャンス、働くことで社会に貢献できる、ボーナスで海外旅行もできると考えていた学生たちには、予想もできなかった答えの数々であった。ふだんは無口な父、笑顔を絶やさない母が、真顔で語ることばの一つひとつに、ただならぬ気配を感じた学生たちは、いつもとはちがう心の領域への感動がズシンと響いた。

 夏休み明けの秋学期の授業では、学生全員に2分間(800字)スピーチをしてもらった。父や母にインタビューした何人かの学生は、話の途中でことばを詰まらせ、涙をこらえるように上を向いた。そのスピーチを聞いているほかの学生たちもまた、目を半ば閉じるように、胸を熱くしている。

 それはスピーチの内容という次元を超えて、話し手自身の感動から生じた熱いエネルギーが、聞き手のハートを直撃して共鳴し、さらに大きな感動の波を生み出したのである。

 そこには、世界にひとつだけの実話、ほんとうの物語から〈伝わる〉、大きな「感動」が輝いていた。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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