連載「つたえること・つたわるもの」(72)
話し手が感動する話は、聞き手の琴線に触れると、涙があふれる。
連載 2019-08-27
出版ジャーナリスト 原山建郎
スピーチトレーナーの西任暁子(にしとあきこ)さんは、彼女が主宰する話し方講座の生徒から、「日本メンタルヘルス協会の江藤信之さんはいつもディズニーランドの話をされるので、もうすっかり内容を覚えてしまったんですが、それでも毎回、感動して泣いてしまうんです。これってどうしてなんでしょう」という質問を受けた。西任さんもその秘密が知りたくなって、早速、江藤信之さんの講演(ディズニーランドの話)を聞きに行ったという。すると、すでに聞いていたと同じ話の内容なのに、自分も感動して泣いてしまったと、自著『「ひらがな」で話す技術』(サンマーク出版、2012年)の中で書いている。
同書に西任さんが要約して紹介した「ディズニーランドの話」とは、次のようなものである。
幼くして亡くした娘の一周忌にと、ディズニーランドを訪れたある夫婦は、お子様ランチをふたりぶん頼みました。でも、お子様ランチは子どもだけが頼めるメニューです。スタッフは「申し訳ございません。こちらのメニューは……」と一度は断わりますが、事情を話すと注文を受け付けてくれました。しばらくして運ばれてきたのは、注文したお子様ランチだけではありませんでした。亡くなった娘さんのぶんのお子様ランチと、子どもが座れる小さな椅子も一緒だったのです。
(第5章 「話し方」が変わると人生は変わる 182~183ページ)
江藤さんの講演を聞いた西任さんは、「話している江藤さん自身が、誰よりも感動している」ことに注目した。いい話をして、聞いている人を感動させてやろうと思って話しても、相手の心は動かない。それは、「感動させてやろう」という裏の気持ちが〈伝わって〉しまうからではないか。そして、何よりも「まず、あなた自身が心を揺さぶられてください」と、西任さんは提案する。つまり、話し手自身の心がどうしようもなく動いてしまうとき、聞いている人の心も動いて、感動が生まれるというのである。
感動は共鳴・共振・伝染する。話し手自身が感動する話は、聞き手の琴線に触れると、涙があふれる。
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