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連載「つたえること・つたわるもの」(72)

話し手が感動する話は、聞き手の琴線に触れると、涙があふれる。

連載 2019-08-27

 2011年夏休み、龍谷大学文学部の夏期集中講義で、「働く喜び、仕事の価値」のレポートを課した。

① あなたの周囲にいる【生き生きと働く大人】に、「あなたにとっての働く喜びとは何ですか? 仕事の価値はどのようなものですか?」について質問し、そのやりとりを通じて考えたこと、感じたことを八〇〇字程度にまとめてください。

② インタビューする大人は、両親、祖父母、伯父叔母、兄姉、アルバイト先の店長、学校の先輩、中高時代の恩師、誰でもいい、【生き生きと働く大人】を見つけてください。

 この課題は、まず【生き生きと働く大人】を見つけることから始まった。

 一足先に社会人になった高校時代の同級生、銀行で働くキャリア五年目の姉、日本の高度経済成長時代を支えた八十歳で元気な祖父など、学生たちは張り切ってインタビューを進めた。

 思いがけず苦戦を強いられたのが、一家の大黒柱である父や共働きで家計を助ける母だった。「そんなこと考えたことない」、「面と向かって聞かれると、恥ずかしい」などと、逃げ腰になる父や母を説得した決め台詞は、「これは夏休みの課題だから」というものであった。それを聞くと、父も母も急に居ずまいを正し、「働く喜び、仕事の価値」について語り始めた。リストラに遭って失業中の父も、その苦しい胸中を正直に明かしてくれたという。

 その中から、二人の体験を紹介する。ただし、個人情報保護の問題があるので、若干リライトしてある。

○ 最初は堅苦しい両親だと思っていた学生Aは、「両親から伝えられたことを思い返していく内に重要だと思ったものは、生き方です。古きよき昔の「お天道様が見ている」という悪いことをすると誰かが見ているんだという簡単な教えでしたが、今だからこそその重要性がわかります。子供の世代に伝えるべきこともやはり生き方だと思います」と、この課題で話を聞くなかで、親の思いをしっかりと受けとめた。

○ 幼いときから転勤族で苦労した学生Bは、「小さい頃から、学校がしょっちゅう変わり友達も変わり、落ち着けばまた転勤といった繰り返しであった。なかなか友達付き合いも難しかったし、いじめられる経験ももちろん体験した。ことごとく反抗してきたから、私は親の信頼さえもなかった。味方はゼロだ、そう思い込んでいた。やっと、親と打ち解けたとき、『相手の立場にたててよかったね、これからは自分がされて嬉しいこと、嫌なことをちゃんと考えなさい』といわれ、私はその時やっと、気付けたのだ。思えば、兄弟喧嘩をしても、お兄ちゃんの嫌がることはしない、とかお姉ちゃん喜んでいるよ、とか言い方は違ってもそういった言葉があふれていた。しかし、気にも留めていなかったし、そんな考え方はしたことがなかったのだ」と、さまざまな辛さ、苦しさを乗り越えて成長した自分自身に、感動していた。

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