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連載「つたえること・つたわるもの」(66)

新着トピック「光免疫療法」を、鍼灸師の勉強会でおさらいする。

連載 2019-05-28

 もう一つは、間接的な抗腫瘍効果、つまり制御性T細胞の破壊による免疫の活性化である。がん細胞の近くにいて、免疫細胞の働きをOFFにする制御性T細胞【自己免疫病にならないように、過剰な抗原抗体(免疫)反応を抑制する細胞で、がん細胞はこの制御性T細胞を利用して、免疫系からの攻撃を回避している】をたたいて、免疫細胞の働きをONにするやり方である。がん細胞(抗原)のまわりにいて、他の免疫細胞ががん細胞を攻撃しないように働く制御性T細胞をたたくために、近赤外線が威力を発揮する。

① 制御性T細胞(抗原)にくっつく抗体に近赤外光線の光で化学反応を起こす物質(IR700)を付けて、注射で体内に入れる。
② IR700が付いた抗体は全身を循環する血流に乗って、がん細胞の近くにいる制御性T細胞に付着する。
③ そこに、ランプや内視鏡などで近赤外光線を当てると、制御性T細胞に付いている物質(IR700)が熱(化学反応)を発して、制御性T細胞の細胞膜を破壊する。
④ すると、がん細胞の近くにいる免疫細胞は邪魔者がいなくなるので、直ちに免疫細胞の働きが「OFF」から「ON」に切り替わり、数十分のうちに活性化してがん細胞を破壊する。
⑤ さらに血流に乗って全身を巡り、わずか数時間のうちに転移がんを攻撃し始める。
⑥ がん腫瘍内にいる免疫細胞はほとんどすべて、がん細胞のみを攻撃するように教育されており、免疫の効きすぎが原因になる自己免疫疾患のような従来の免疫治療で起こる副作用は起きない。

 ちなみに、近赤外光線の光で化学反応を起こす物質(IR700)は、近赤外光線を吸収する性質を持つ化学物質。道路標識や新幹線の車体の青色部分の塗装に使われるもので、人体に害をおよぼすことはない。

 昔から、がん治療の三大療法といえば、手術療法、放射線療法、抗がん剤投与であった。残念ながら、どの治療法も「正常細胞に害を与えず、がん細胞だけを死滅させる」ことはできなかった。

 しかし、小林さんが開発した「がんの近赤外線免疫療法」はいま、正常細胞に害を与えず、がん細胞だけを死滅させる、からだに優しい免疫療法として、日本はもとより世界中から大きな期待が寄せられている。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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